病院・診療科について女性と妊娠と体重と

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  妊娠中の母体の体重増加の程度は母体と胎児の予後に影響します。母体の体重増加不良があると早産が増加し胎児も体重増加不良となります。胎内死亡や新生児死亡も増加します。
 一方で過度な体重増加では妊娠高血圧腎症などの妊娠合併症が増加します。
巨大児の頻度も増えるため、当然帝王切開での分娩も多くなります。妊婦健康診査の度に体重増加をチェックするのはこのような理由があるからです。
 では理想的な体重増加はどれほどなのでしょう? ただし妊娠前の体重には差があり、やせであれば母体貧血や胎児発育遅延、肥満があると先天異常、死産、妊娠高血圧腎症、早産、妊娠糖尿病や巨大児が増えることも知られています。従って妊娠前BMI(body mass index) を考慮した体重増加の目安を提示する必要があります。
 2009 年に米国医学研究所から妊娠前BMI の程度に対応した体重増加の目安が提示されました。例えば妊娠前BMI が18.5 未満の“ やせ妊婦” であれば12.5 ~ 18kg の体重増加が推奨され、BMI が30 以上の“ 肥満妊婦”であれば5 〜 9kg に抑えることが推奨されています。妊娠前BMI が18.5〜 24.9 の“ 普通体型の妊婦” であれば11 〜 16kg が推奨域となります。
 安心された方もいらっしゃるかもしれませんし、“ え〜無理〜、そんなに増やせない〜 ” と感じた方もいらっしゃると思います。あくまでこれらのデータは欧米のもので日本独自のものではありません。日本では8 ~ 14kgの体重増加に抑えることで種々の合併症が減ると説明されていますが、妊娠前BMI の程度に応じた体重増加の目安は提示されていません。今後の調査が望まれます。最近では産後に体重が増えたまま妊娠すると次子の死産や乳児死亡が増加するとの報告もあります。
 このように妊娠前、妊娠中そして次子を期待する期間にも体重に気を配る必要がでてきました。こうなると女性にとって体重のコントロールは人生を左右するまさに一生のテーマと言っても差し支えないでしょう。「中庸は徳の到れるものなり」という故事があります。適当にバランス良く行動できる人が少なくなったことを憂いたものですが、体重においても中庸を心がけたいものですね。

(古川 誠志:杏林大学医学部付属病院 産科婦人科 准教授)

杏林大学新聞第15号より抜粋