研究・社会活動
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最近の動き
香港中文大学滞在記
医学部基礎生命科学T(生物学)講師 田中浩輔
海洋科学研究所セミナーの後、
朱教授らと筆者(前列右)
海洋科学研究所の前で筆者(中央)
本年度7月末より、9月下旬までの約2ヶ月間、香港中文大学海洋科学研究所、朱嘉濠(Chu Ka-Hou)教授のもと「甲殻類心臓の筋原性から神経原性への転換」というテーマで研究を終えて帰国いたしましたので、ご報告いたします。

香港は、身近な観光地としてあるいはアジアで東京と並ぶ経済拠点として、ご存知の方も多いことと思います。 6年ほど前、イギリスより中国に返還され、150年余りの植民地が終了したことはまだ記憶に新しいところであります。

香港中文大学は、香港大学と並ぶ伝統のある大学で、本学の海外協定校にもなっています。大学は、香港の九龍半島側中心である尖沙咀から九広鉄道(香港と広州とを結ぶ鉄道)で約20分、大学(Tai Ho)駅にあります。入り江沿いの切り立った一山が大学となっており、7つの学部、4つのカレッジからなる英国式の大学です。私の滞在した海洋科学研究所は大学の敷地の入り江沿いにあります。

私は、これまで比較生理学の分野で、エビ・カニ類の運動と心臓循環器系との活動の連関機構の研究を行ってきました。 数年前、機会に恵まれ、カナダ・カルガリー大に留学し、そこでの研究で、甲殻類心臓の発生の研究プロジェクトに携わり、エビ類研究者である朱教授知り合いました。 それ以来、朱教授と、共同研究を行ってきました。

エビなど多くの甲殻類の成体の心臓は、我々哺乳類をはじめ多くの生物の心臓と異なり、心筋自身に自動性を示しません。 その代わり、心臓内部に心臓神経節と呼ばれる小さなニューロン回路が存在し、それがペースメーカーとなって信号を出し、拍動を起こさせています。 私の目的は、こんなエビも幼生時代は、我々の心臓と同様に心筋の自動能で拍動し、成長にしたがってペースメーカーである心臓神経節の信号で拍動するようになるという電気生理学的証拠を得ることでした。

短期間であるため、用意周到にしたつもりでしたが、やはり他国であることを痛感させられました。 日本や北米では、ホームセンターが多くあり、小道具、素材等を簡単に手に入れることができますが、香港では、昔の日本のように小さな商店が多く、また、物を作ることが少ないのか、簡単には思うものがそろいません。 はじめの1週間は、ほとんどが買い物と工作に費やされました。また実験材料であるエビの幼生を使うには、卵から育てる必要があります。まず妊娠メスを集め、それを孵化させ、10日ほど飼育して使用します。

香港付近は、8月といえば台風シーズンであり、私の滞在期間中3回台風の接近があり(内2回は直撃)、この前後2-3日ずつは材料が採集できないので、実質、実験期間3週間程度しかありませんでした。

エビの幼生自体は1ミリぐらいで、心臓は、大体100ミクロンぐらいです。

この小さな動物をなるべく動かないようにして、1分間に500-600回拍動している心筋細胞から細胞内電位を記録するのは思った以上に至難の業(記録が取れるものだけで、使用した幼生の数%ほど)でありましたが、何とか約十数例からの記録ができ、数例は、目的にかなうデータが取れました。さらに今回は、自分の仕事を研究所セミナーで発表させてもらい、大変有意義な経験をしました。

この研修によって、私にとって、大変貴重な経験および研究データを得ることができました。今後、この経験を生かして、研究および教育にいっそう努力する所存でおります。
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