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研究協力情報・テーマ
東南アジア医療情報協力事業テクニカルミーティング参加報告
医学図書館 諏訪部直子
はじめに
このたび、財団法人日本国際医療団(以下IMFJ)が行ってい る東南アジア医療情報協力事業(以下SEAMIC)の一環としてテ クニカルミーティング(2003年9月29日〜10月3日)がベトナ ムのハノイで開催され、日本の医学情報専門家の1人として参 加する機会をいただいたので報告します。
IMFJは、1967年に当時の外務省と厚生省によって設立され財団法人で、@開発途上国に対する医療協力の推進、A海外在留邦人の保健の向上、のために活動しています。
その事業の一つであるSEAMICの目的は、「@加盟国の国民の保健、衛生及び医療に関する行政の向上に寄与すること、A医療情報の提供、交換を通じて、研究、技術開発及び人材育成を推進し、充実を図ること」となっています。
SEAMICはODAの一環として外務省の補助金を受けて感染症、保健統計、医学文献情報、栄養の4分野で事業を展開し、各分野で専門家のためのテクニカルミーティングやワークショップ、国別研修などを行っています。
私が参加したのはそのうち医学文献情報に関するテクニカルミーティングでした。
加盟しているのはブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの7カ国で、SEAMICはこれらの加盟国に対してパソコンを提供したり、インターネットを通じた医学文献送付サービスや各国で医学図書館員に対する研修を行ってきました。

テクニカルミーティング
この会議の開催地は毎回変わるのですが、今回はベトナムの首都ハノイで、会場は市の北部、湖と河を見渡すことのできるSofitel Plaza Hotelでした。
日本から乗り継ぎで香港を経由したときに中国語でハノイは「河内」と書くということを知ったのですが、着いてみるとそこはなるほどと納得してしまうくらい湖と河に囲まれた都でした。

日本からはIMFJ職員2名、専門家2名の計4名が参加しました。
各国からは2名ずつの参加があり、彼らの職場は様々でしたが多くは大学医学図書館や保健省(日本の厚生労働省に当たる)の情報部門の管理者でした。
ブルネイやベトナムからは医師の資格を持ちながら大学や国の医学図書館で働いているという人も参加していました。
全部で30名ほどの小さな集まりだったのですが、開会式はベトナムの保健省副大臣が出席し、マスコミの取材でライトが照らされテレビカメラが回る中、恭しい雰囲気で執り行われました。その様子はニュースで流れたりもして、開催国にとってはちょっとしたイベントだったようです。
とはいえ保健省副大臣は参加者一人ひとりの席をまわって握手してくださるなど、小さな会議ならではのアットホームなところもあり、これから始まる会議全体の雰囲気を物語っているようでした。

テクニカルミーティングは、参加者による各国の医学情報流通に関するカントリーレポート、日本の専門家による講演、ベトナムのネットワークや電子図書館についての報告、グループディスカッション、見学などで構成されており、私は2日目に “Medical library and information in the 21st century (21世紀の医学図書館と情報) ”、”Evidence Based Medicine and the role of medical librarians(EBMと医学図書館員の役割) ”という二つの講演をそれぞれ約1時間行いました。
依頼されたこととはいえ、私にとって向こう見ずと思われるほど大きすぎるテーマ、しかもそれを、状況の異なる東南アジアの国々の参加者に英語で伝えるのは本当に大変なことでした。

結果として一つめのテーマは医学図書館を取り巻く状況と今後進むべき方向について概論的なことを中心に述べておおむね好評でしたが、二つめはEBMを知るためには必須のメタアナリシスとランダム化比較試験の論文や数値データの読み方を説明したところ、「図書館員がそこまで理解する必要はないのでは」という反応が各国から返ってきてしまいました。
医学情報を扱うという点では同じでも、国によっては必ずしも専門の勉強をしたスタッフが配置されているわけではなく、また受けた教育のレベルに差があるため、そこまではできないというのが現状であり本音のようです。
昨年、アメリカの医学図書館で行われている進んだ情報サービスを視察してカルチャーショックを受けましたが、今度は逆の意味でカルチャーショックを受けることとなりました。
しかし、普段私の目が欧米にばかり向いていてアジアの国々については何も知らないということや、日本がアジアの一員であることを忘れがちであることを思い知らされました。そのためこの二つの講演以外は、一参加者として全てのプログラムに出席し、様々な国籍の参加者と交流を深めました。

おわりに
外務省の方針により、多くの外郭団体への資金提供が中止されることになったことを受け、来年からIMFJへの資金提供も中止されることになりました。
そのためこれが最後のSEAMICテクニカルミーティングになってしまいました。
加盟国は突然の援助中止に皆一様に戸惑い、継続を求める声が会議中に多く聞かれました。
SEAMICの活動は加盟各国から高く評価されていたのに残念なことです。
しかし約35年の活動で培われた人的なつながりや信頼関係を生かして今後も何らかの形で相互に協力していくことが約束されました。
私は今回初めてSEAMICの活動に協力し、国際協力という視点から医療情報提供について改めて考えさせられました。
これから発展し続けていくであろう東南アジアの国々は、日本からの経済的物質的な援助に一方的に依存するのではなく、まず自国の中で基本的な情報を整備して共有し利用する体制を整えるべきであり、今がその時期なのではないかと考えました。
2003.10
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