中竹 俊彦

リンパ球を追う(シリーズ000CD-ROM教材 その(5)Bリンパ球

リンパ球の世界(概観)

その(5) Bリンパ球

                        杏林大学 保健学部 臨床血液学 中竹 俊彦

CD-ROM画像5の「解説」 Bリンパ球

 骨髄に回帰したBリンパ球とみられます。

 細胞質に半透明の「分泌小胞(:空胞ではない)」が融合して、大きくなってくる異常な様子が認められます(矢印については、詳細解説を参照)。

 形態は細胞質の広いリンパ球であって、形質細胞にはなっていません。

 この細胞のように、リンパ球系のうち骨髄由来リンパ球( bone marrow lymphocyte: B リンパ球)は、リンパ節で最初の抗原刺激(感作)に伴って最終的には形質細胞までの分化に向かいます。

 そのリンパ節において抗体産生細胞としては、ある群は感染症初期の抗体である IgM を産生する段階までで分化を終わります。IgM産生の機能を発揮して活躍し、寿命を迎えて生命活動を終わります。すなわち、IgM産生細胞は、まだリンパ球段階にあり、分化段階が形質細胞には至っていません。

 普通染色では鑑別不能ですが、その分化に伴う変化を表面マーカーで追うと、膜面のIgM 陽性Bリンパ球( SmIgM+ )から酵素抗体法では次の分化段階で細胞質IgM陽性( CIgM+ )に移行したところまでの分化で機能発揮して生涯を終わるということです。

 骨髄に回帰してきたIgM産生細胞が異常に多くなると高マクログロブリン血症(良性)、ひいては経過によっては腫瘍性(悪性)の症例へと移行する例があり得ます。

CD-ROM画像5の「詳細解説 1.IgM産生と分泌の異常

 IgMを産生するリンパ系細胞はリンパ球としては成熟Bリンパ球(表面免疫グロブリン陽性:SmIgM )から一段分化した、抗体産生では初期の段階の細胞です。その段階はまだ形質細胞にはなっていないBリンパ球の範囲で、細胞質にIgM( CIgM )の存在が証明されるものです。

CD-ROM画像5の「詳細解説 2.分泌小胞とは?

 細胞質の辺縁に空胞とは異なる半透明の楕円形の封入体が認められます(紫色矢印)。

 本来は正常に免疫グロブリンを産生し、分泌しているリンパ系細胞ではこのような封入体は認められないと思われます。ところが、分泌機構に障害があるとすれば泡沫状に至る封入体も生じるのではないかと考えられます。

 分泌不全(蓄積)が高まると封入体が例えば形質細胞の細胞質に著しく生じるとグレープ細胞( grape cell ) mott cell、さらには火炎細胞( flame cell )などの呼称をつけられることになります。

CD-ROM画像5の「詳細解説 3.分泌小胞の蓄積とは

 元来、分泌機能を発揮する細胞の特性は、正常な分泌小胞として顕微鏡的には見えないほど微細に、産物を包む膜の合成と膜成分の細胞内循環サイクルに特殊な機能を備えていると考えられます。ところが形質細胞に至ると、1個の細胞に与えられた寿命時間内に抗体の産生は終了して細胞質が萎縮し、裸核化して寿命を迎えます。

 そのサイクルのどこかに異常が生じて、細胞膜外へ抗体を分泌できない異常が生じると、分泌すべき成分が小胞のまま多数存在、あるいは融合しあって大きな封入体と化して、抗体は異常に蓄積されるものと考えられます。

 それは形質細胞でも同様で、grape cell などの例にみられます。

 以上の様な、リンパ球への考え方、顕微鏡的な観察の手順、観察のポイント、観察内容の表現、解析と表現法などについては、拙著「テキスト」を御参照いただくと多様性についての対応が御理解いただけるものと思います。

 体裁

 B5版(本文 305頁)

 目次(序論・1〜24まで9頁)

 索引(欧文A〜Z 2頁、和文索引19頁 合計21頁)

  (頒布いたします)

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