中竹 俊彦

 リンパ球を追う(シリーズ200リンパ球の世界(II)‐リンパ球の本質に迫る2−2.リンパ球の機能の発揮とは何か?

リンパ球の世界(II)

 ‐リンパ球の本質に迫る‐

2−2.リンパ球の機能の発揮とは何か?

                          杏林大学 保健学部 臨床血液学 中竹 俊彦

 正常なT、B、NKリンパ球などはともに、本来は同じような大きさの核と細胞面積(厳密には、核の容積と細胞質の容積に相当)を保持し、体内を循環し、必要に応じてリンパ球の機能を発揮する細胞群です。

 各々のリンパ球の機能は、それぞれのリンパ球にとって必要な刺激(特異的刺激)を「受容体:レセプター」で受けると刺激は核へ伝達され、核の遺伝子から物質を産生するには必須の「伝令:メッセ−ジ、遺伝情報:mRNA」を繰り出します。

 その情報「=mRNA」の発現を待って、準備されたリボソームが連鎖状に結合して読み取り、その結果、トランスファーRNA(tRNA)から特定のアミノ酸を受け取りペプチド結合して1個のmRNAから1個の、また複数のmRNAからは複数のインタ−ロイキン類(IL)、インターフェロンなど糖タンパクの産生を分担します。

 そのほか、必要なときつまり、刺激がPHA(フィトヘマグルチニン)刺激のように分裂を意味する情報であったときには、非特異的な刺激であっても細胞分裂に向かう能力を発揮できます。

 リンパ球の基本形態は同じようでも、機能は異なります。「細胞分裂機能」などは、系統が異なっても、刺激の質(PHA、あるいはIL-2など)とその後の分化・成熟過程の条件を満たしていくと、一定の経緯を経て分裂機能の発揮が可能です。

 すなわち、リンパ球は由来が異なること、行き先が異なること、形態は似通っていても、ともにこれから活動する点では同じ環境にあります。

 T、Bリンパ球はともに、「刺激を受ける前」では、私達も染色標本上の形態ではそのサブクラスの多様性が区別できないということです。当然、核のクロマチン構造、核の大小(核面積と厚みの積:容積)、細胞質の大小(細胞質面積と厚みの積:容積)からN/C比が決まることも共通で、T、Bリンパ球は産生直後(新生リンパ球当時)には共に大差はありません。

 したがって、リンパ球は標本上の形態ではT、Bの区別は不可能なのです。以上が教科書で「形態学的に区別が出来ない」とされる理由、背景なのです。ときには、私たちは造血幹細胞や線維芽細胞をも一括してリンパ球(この場合、厳密にはlymphoid cell;リンパ様細胞に分類してしまうことも想像できます。

 末梢血リンパ球はどこからきて、どこ行くのかが個々に異なるものであるという前提(私達の知識としての土台)で受け止める必要があります。リンパ球はどれもが似通っていて「みな同じようである」という認識(正しくは、誤解)があるうちは、それ以上のことはみえてこないと言えます。

 結果として、認識が無ければ私達がそれらを鑑別できない、判断できない、という状況に置かれていることなのです。

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 体裁

 B5版(本文 305頁)

 目次(序論・1〜24まで9頁)

 索引(欧文A〜Z 2頁、和文索引19頁 合計21頁)

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