中竹 俊彦

 リンパ球を追う(シリーズ200リンパ球の世界(II)‐リンパ球の本質に迫る2−3.リンパ球の行方(そのリンパ球はどこへ行き着くのか?)

リンパ球の世界(II)

 ‐リンパ球の本質に迫る‐

2−3.リンパ球の行方(そのリンパ球はどこへ行き着くのか?)

                          杏林大学 保健学部 臨床血液学 中竹 俊彦

 まず、著しく小型化したリンパ球のように、「細胞質を失ったかの様に狭く、ときには核自体も濃縮ししたリンパ球の小型化:萎縮像」を示したとき、そのリンパ球は一体何を物語っているのか、私達に何を気づかせようとしているのかを考えてみましょう。

 このような形の変化・大きさの変化を洞察しなければ、観察の意味がありません。間違っても「小さく生まれたリンパ球だ」とか、「大きく生まれたリンパ球だ」という判断では困ります。その程度の判断が正しいならば、それらのリンパ球はおそらく後天的な染色体異常を意味し、「正常なリンパ球産生」を意味しないと考えられます。

 なぜなら、正常な新生リンパ球とは、これから活動するのにふさわしく、「ふっくらした核」と「その核に見合った細胞質の広さ」を保持しているからこそ、私達はそれを見て正常な形態であると定義でき、基本的な形態だと判読できるのです。その中に、大型化や小型化が生じてくることもまた正常な範囲でしょう。

 リンパ球の基本形態が萎縮したのはなぜか、どうなっていくのか、今後の血液形態学では大小の判読や解釈が大きな問題だと思います。

 一方、リンパ性腫瘍細胞群では、リンパ球の大小不同は頻繁に発生しているようです。腫瘍細胞の細胞分裂では二次的な染色体異常が派生し、染色体数の不整(不揃い)を来すことが明らかにされています。

 腫瘍細胞化は核分裂自体あるいは同調すべき細胞質の分裂機構自体にも影響して、大小不同が頻繁に発生するからだと考えられます。4倍体(4N)の腫瘍細胞もありえます。また、多発性骨髄腫の染色体分析で、染色体数の不揃いが多様な結果をもたらすのは、そのような細胞分裂異常の典型です。

 一般的に、患者の血液塗抹標本(または、被験者が健常なヒト)においても、そのリンパ球が正常と考えられるのに、標本の中には「いくつかの著明なリンパ球の萎縮像」があります。萎縮像があれば、「その形態は何を意味するのですか?」という質問に答える必要があるということです。

 健常人ならば血中のすべてのリンパ球が大小の違いに無関係に「正常に機能する」と思い込むのは、大きな誤りを含んでいる点に早く気づくことは大切だと思います。好中球の大きさに対しても同様です。標本の乾燥不十分の時だけ萎縮像だろう、という問題ではないからです。

 萎縮化した小型のリンパ球(あるいは、萎縮化した好中球)は、どこへ行って、何の働きを果たそうという状態なのでしょうか。

 もちろん、細胞の核が基準状態から著しく濃縮し、細胞質も水分を失って萎縮した結果、リンパ球(あるいは、好中球)の機能は、もはや発揮できない、「死細胞に近い」と考えるのが「細胞生物学的な考え」においてはその結論なのです。

 これらの著明に萎縮化した細胞が行き着く先は、炎症の場所(局所)ではなく、血液の濾過装置である「脾(臓)」が終着点(ターミナル)だと考えるのが血液学的に正しい判断であると思います。

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 体裁

 B5版(本文 305頁)

 目次(序論・1〜24まで9頁)

 索引(欧文A〜Z 2頁、和文索引19頁 合計21頁)

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