中竹俊彦

リンパ球を追う(シリーズ300-B)リンパ球の世界(III-B) リンパ球をどうみるか‐5.リンパ球の多様性(リンパ球の反応経過中の問題点の数々)

リンパ球の世界(III‐B)

 B.リンパ球をどうみるか

5.リンパ球の多様性(リンパ球の反応経過中の問題点の数々)

                          杏林大学 保健学部 臨床血液学 中竹 俊彦

 以上のように、リンパ球の多様性を観察するとさまざまなのに、 形態学的にはリンパ球の形態でこれ以上の臨床的な意義を何も明らかにすることはできないと思われています。

 従来の記述では「異型リンパ球」だけが意味があるかのように理解されています。それは細胞の大きさ、塩基好性の増強が連続的であっても、特に著しい点があれば指摘して区別できるからに他なりません。ところが、リンパ球を用いて実験してみると、大きさや塩基好性の増大の性質は、あるリンパ球では反応の初期には比例する場合もあります。リンパ球全般が等しく応答するのではないことが多様性の背景にある問題点なのです。

 しかし、上記の塩基好性やクロマチン量が増大する性質は、リンパ球が受けた「刺激の質」の違いにより互いに独立して変化していく場合もあります。そして末梢血では塩基好性クロマチン量とが必ずしも平行するとは限らないことも多様性の問題点なのです。

 塩基好性が強くても萎縮しているリンパ球もあります。しかも連続的な移行というべき変化なので、例えば「これ以上の変化は異型リンパ球である」という線引きによる切り分け(分離)ができないことも多様性の問題点でしょう。

 じつは、顕微鏡的観察でも自動血球分類装置でも、形態学的には「刺激による活性化」、「刺激に反応後の異型リンパ球」などを定義することが非常に難しく、正確に判別できません。その理由は、異型リンパ球に至る連続的な移行に伴う微細な変化があって、線引きを困難にしている背景が多様性の問題点と思われるのです。

 新生リンパ球から異型リンパ球までの連続的な移行(推移)では、ある刺激に反応したリンパ球がDNA合成を伴って大型化に向かっているときは約30時間後に細胞分裂に至ります。ところが、通常血中からは組織、リンパ節などへ移動して、経時的には観察できないことが行動の多様性の問題点です。

 また、刺激後、単に塩基好性の増加(mRNAの産生)だけでサイトカイン類を産生できる反応では、恐らく長くとも数時間以内で機能を発揮し、細胞質の大型化はあっても細胞分裂することはないと解釈されます。この場合も血中からリンパ節か組織へ移動していく経過中に起こる反応で、終わりまで具体的に見えてこないことも行動の多様性の問題点です(血中で放出しても血流で希釈されるのでは、細胞生物学的に標的細胞へ届かない)。

 したがって、このような刺激応答の経緯は、「リンパ球を用いた刺激応答の実験という手段で、時系列に切り取って得られる「細胞像を捉える方法」を組み立てて、頭脳的に並べてイメージの中で理解することが有効な手法になります。

 末梢血リンパ球の特性を表現するには、リンパ球への刺激と(応答)反応に伴う変化に対して、前述のような用語の範囲では1枚の標本からは表現できず、概念の構成には無理が生じます。

 体裁

 B5版(本文 305頁)

 目次(序論・1〜24まで9頁)

 索引(欧文A〜Z 2頁、和文索引19頁 合計21頁)

  (頒布いたします)

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