中竹俊彦

リンパ球を追う(シリーズ300-B) リンパ球の世界(III−B)リンパ球をどうみるか 7.パラクロマチンなど(馴染みの少ない用語の応用例)

リンパ球の世界(III‐B)

 B.リンパ球をどうみるか

7.パラクロマチンなど、馴染みの少ない用語の応用例

                          杏林大学 保健学部 臨床血液学 中竹 俊彦

 現在、臨床検査技術教育の教材(いわゆる、血液学検査の教科書)では、すでにリンパ球形態の一般的な表現の中に「(リンパ球の)核膜は明らかだが、赤芽球におけるほど厚くない」というように、核膜が表現用語にみられる時代です。

 この表現の場合の核膜は、厳密には二重の膜で、光顕ではみえるものではありません。また、厚くなるということは細胞生物学的には起こりえません。その著者が「核膜」の用語を用いた表現は、核の辺縁部の内側に濃縮クロマチンのかたまり(塊)濃い縁取りを形成している状態を表現したものと思われます。遺伝子が繰り出されている部分(つまり、活性化あるいは転写中の部位)は分散クロマチンです。これら2つの用語は、血液形態用語として一般化していると思います。

 これらのクロマチンの状態に加えて、細胞生物学用語のヘテロクロマチンというのは異質クロマチン;濃く染まるという意味で不活性部位・女性で2本のX染色体のうち一方のみ(いわゆる、ドラムスティック)か、核小体の周囲に存在する既に不活化された濃縮クロマチン核小体形成領域:NORの遺伝子の不活性化)に相当するものです。あるいはパラクロマチン(parachromatin=Achromatinに同じ;核漿のこと・紡錘体形成時に生じる染色体以外の部分の核液)などの用語が出てくると、形態学では混乱します。ヘテロクロマチンは細胞生物学で一般化している用語で問題はないのですが、後者は古い細胞学用語で特定の方々の間でしか、あるいは一般的にはヒト細胞生物学では現在、ほとんど用いられていないと思われます。

 核膜が厚いという教科書での表現は、読者側が血液学教科書の著者独自の表現として解釈することになるでしょう。また、急性リンパ性白血病(ALL)の白血病細胞の鑑別法では、FAB分類でスコアリング方法の解説のなかに「核膜の不整なものはマイナス1点」と表現された例もあります。この場合にも、核の辺縁部の不整しか光顕ではみえないはずなのに「核膜の不整なものは」と表現されています。したがって、必然的に用語の範囲を拡大し定義を加えるなど検討しなければならないのは、読者も私も同じ立場でです。

 さて、リンパ球が刺激に反応して生じる変化は、ほとんど分子のレベルでの変化です。私たちがリンパ球の形態変化に注意を払いつつ観察結果を論議するには、現在では分子のレベルに切り替える考え方が必要になります。ここがリンパ球形態学への「入り口」の周辺事情になることをまず認識していただこうと考えています。

 体裁

 B5版(本文 305頁)

 目次(序論・1〜24まで9頁)

 索引(欧文A〜Z 2頁、和文索引19頁 合計21頁)

  (頒布いたします)

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