胸部大動脈治療で本学のオリジナル術式 -ヨーロッパのガイドラインに採用され拡がりを見せる

作成日時:2020年09月08日


   窪田教授

 
 本学医学部付属病院 窪田 博教授を筆頭とした心臓血管外科および形成外科大浦紀彦教授のチームが開発した胸部大動脈治療の術式が、2019年にヨーロッパの外科治療ガイドラインにクラスⅡa(*1)として採用されました。
 これは、人工血管の代わりに牛などの異種心膜を用いた大動脈置換術式です。胸部の大動脈瘤や大動脈解離での一般的な手術法は、該当箇所を中心とした血管を人工血管に置換するものですが、ポリエステルなど人工素材を成分とするため、手術後に感染症などの合併症を起こす可能性が一定数あり、感染症を発症した場合の死亡率は30~70%と高リスクになる恐れがあります。
 そこで、窪田教授は代替となる術式を研究し、2009年に日本で初(世界でも1・2例目)となる、馬の心膜を用いた上行大動脈置換術を実施しました。その後症例数を重ね、2020年までに19例の手術を実施し、人工血管を用いた術式より感染症や死亡のリスクを遥かに低く抑えられる成果を得ました。また、異種心膜は素材が柔らかく、縫合が行いやすいことや、術後に抗生物質の内服を中止できるなどのメリットもあります。
 本術式が論文やヨーロッパ心臓胸部外科学会で発表されてから、2019年にヨーロッパの外科治療ガイドラインに採用され、現在の推奨術式の1つとなったことで、当院を含む世界各地で70例以上の成功症例が報告されるなど、本術式は広がりを見せています。
 また、窪田教授のチームでは、胸部大動脈に留まらず、首の血管まで本術式で置換することに成功しており、これは現在世界で唯一の技術となります。

 窪田教授は、「本術式の良好な成績は、形成外科、消化器外科、麻酔科、循環器内科、感染症内科などの多科にわたる医師とメディカルスタッフにより形成された本学独特と言っても良い集学的治療体制に支えられて得られたものです。また、術後急性期、遠隔期の合併症を減らすために、現在も術式の改良を加えています。今後もさらに症例を重ね、縦隔炎、人工血管感染という難治な病態に対する治療成績の向上に努めたいと思っています」と述べています。

*1 クラスⅠが、スタンダードとなる人工血管の使用を推奨。続くクラスⅡaは、世界的な症例数がクラスⅠ程には満たないが、推奨できる基準

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