病院・診療科についてしたたかな細菌、ピロリ菌

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 ピロリ菌、変な名前ですね。正式には「ヘリコバクター・ピロリ菌」といいます。胃の粘膜をおおう粘液の中に住んでいる変りものであり、ヘリコプターのように身体を回転させながら動くためにヘリコ・バクター(バクテリア)と呼ばれました。従来、胃の中は酸度が強く細菌は住めないと考えられていましたが、その常識をくつ返したのがオーストラリアの研究者、病理医のウォーレン先生と消化器内科医のマーシャル先生です。2人は世界で初めて胃の粘膜からラセン状の細菌(後のピロリ菌)を発見し、胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍の原因菌であることを明らかにし、その功績により2005年、ノーベル賞を授与されたのは記憶に新しいところです。
 ピロリ菌は子供の時に口から感染しますが、上・下水道の完備した現在では子供のの感染が大変少なくなり、今後胃の病気も少なくなることが期待されています。
 ピロリ菌に感染しているかどうかは内視鏡検査で胃の粘膜を採取して調べたり、血液、尿、糞便そして呼気などからも判ります。ただし保険がきくのは胃潰瘍・十二指腸潰瘍だけであり、胃の病気が多い日本人にとっては困ったことです。(※2013年2月21日、厚生労働省は健康保険を適用する範囲を慢性胃炎の治療にも拡大することを新たに認めました。)
 ピロリ菌は3種類のくすり(胃酸分泌抑制薬+抗生物質2 種類)を1週間内服する方法で除菌します。これにより胃炎がおさまり、いろいろな病気(胃潰瘍や胃がんなど)の予防につながります。最近では抗生物質が効かない薬剤耐性菌が増え、除菌できない方も増えています。
 当院の消化器内科は日本を代表するピロリ菌研究のメッカです。2次除菌、3次除菌にも積極的に取り組んでいます。ご心配の方はぜひご相談下さい。ピロリ菌を除菌し、きれいな胃をとり戻しましょう。

(高橋信一:杏林大学医学部教授 消化器内科)

杏林大学新聞 第2号より抜粋