病院・診療科について戸惑える日本人の遺伝子

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 話題となっているメタボリックシンドローム、肥満、そして糖尿病などの「生活習慣病」を有する人達の増加の勢いが止まりません。どうしてなのでしょうか?
 そもそも日本人の食生活は欧米とは異なり、農耕民族として穀物や野菜、そして魚介類が食事の中心でした。その中で体質に合った「和食」が創作されました。一方で日本人には、先祖伝来の遺伝子のなかにインスリン分泌能が弱い性格が組み込まれています。そしてわずかな肥満が存在するだけですぐに糖尿病を発症してしまいます。
 日本の開国そして文明開化後のこのわずか100 年余りの間で、私達をとりまく生活環境は激しく変化しました。すなわち食生活の欧米化や交通手段の発達による運動不足が、日本人の肥満を助長させました。その結果、遺伝子の中にすでに組み込まれている弱いインスリン分泌能がこれらの変化に追いついて行くことが出来ず、まさに「遺伝子が戸惑っている」状況なのです。
 一昨年の推計では、糖尿病の患者数はすでに約900 万人となり、その一歩手前の人々(約1300 万人)と合わせると、わが国の実に約6 人に1 人が治療もしくは予防の対象となっているのが現状です。  この戸惑える遺伝子に、私達自身が早く救いの手を差しのべなければいけません。では一体どうすれば良いのでしょうか?
 ここで少し発想の転換をしてみましょう。先程、日本人はわずかな肥満を生じるだけで糖尿病をすぐに発症してしまうと述べました。ということは、食事や運動などの生活習慣の改善でインスリンに対する感受性が少しでも回復すれば、糖尿病にならずに済む人も多いことを意味しています。 また病気は早期発見が第一です。積極的に定期健康診断を受け、そしてときには食後で良いですから血糖値や尿糖の有無を調べてみましょう。
 どうか大切な「日本人の遺伝子」が戸惑うことがないように、早速今日から生活習慣の見直しをお願い致します。

(石田 均:杏林大学医学部教授 糖尿病・内分泌・代謝内科)

杏林大学新聞 第5号より抜粋