病院・診療科について体温と睡眠の関係

 皆さんは、ご自身の脈を数えることができますか?
 睡眠はいろいろなことに影響されます。眠れないことの原因として、生活上のストレスなどを思いつく人が多いと思いますが、他にも睡眠に影響するものはいろいろあります。ここでは、知っていると生活上でもいろいろと応用ができる、体温と睡眠の関係についてお話ししましょう。
 さて、まず体温と睡眠との直接の関係として、体の中心部の体温が上がると覚醒に向かう変化が起こり、下がると睡眠に向かう変化が起こる、という関係が知られています。風邪などで高熱を発したときに、夜中に何度も目が覚めた経験をされた方もおられるのではないでしょうか。
 このような体温変化は毎日私たちが眠るときにも起こっています。私たちが眠るとき、眠る少し前から体の中心部の体温が下がり始めます。このとき体温を下げる方法として、私たちは体の表面の血管を拡げて体表面から熱を逃がします。子供さんが眠るとき、体が痒いと言うことが多いのはこのためで、体表面の血管が充血することによります。
 体温をうまく体表面から逃がせないとき、不眠が起こることになります。実際、いわゆる“ 冷え性”の人では眠れない人が多いようで、この場合には体の中心部の体温をうまく逃がせない状態になっているわけです。
 ほかに体温変化が直接睡眠に影響する状態として、更年期初期の不眠が知られています。成年女性で月周性の体温変化があることはよく知られています。最初に述べた理屈からすると体温が高い時期に不眠が出現しそうに思いますが、実際はそうはなりません。これは、体温が高い時期に分泌されるホルモンに睡眠を深くする作用があるためで、体温が月周性に変化しても睡眠は同じように保たれます。しかし、更年期では体温変化に先立ってホルモンの分泌が減少し、体温が安定するまでの間、不眠が出現してくるわけです。  夏場、夜中に目が覚めるのも、高湿度などの不快な感覚に加え、体温をうまく逃がせないのも原因の一つです。まだまだ暑い時期が続くと思いますが、睡眠状態をよくするためには体の熱をうまく逃がす工夫をすることが対策の一つとなります。軽くエアコンをかけたりすることなどが勧められていますが、他にも良い方法があるかもしれませんね。

(中島 亨:杏林大学医学部付属病院 精神神経科

杏林大学新聞 第18号より抜粋