病院・診療科について冬はヒートショックにご用心
ヒートショックによる死亡者は年間2万人近い
約19,000人もの人がヒートショックの影響で入浴中に急死したという数が示されています。これは交通事故で死亡する人(平成25年4,373人)をはるかに上回っています。それだけヒートショックは恐い症状であり、思ってもいない瞬間に突然現れるのです。ヒートショックとは?
ヒートショックとは、暖かい場所から寒い場所へ、寒い場所から暖かい場所へ移動するなど、急激な温度変化が影響し、血圧や心拍数が大きく変化することが原因で起こる健康障害です。 失神、脳梗塞、心筋梗塞や不整脈などが引き起こされ、浴室で起こると転倒の危険や湯船で溺れるなど、命に関わる場合もあります。
ヒートショックが起こる過程
では、具体的にどのようなことが起こっているのか見ていきましょう。今回は、最もヒートショックが起こりやすい場所である浴室を例にしようと思います。
1 暖かいリビングから気温の低い脱衣所へ(寒さで血管が収縮、血圧↑) 2 裸になった状態で寒い浴室に入る(血管収縮が加速、さらに血圧↑) 3 湯船に入る(反射的に血圧↑) 4 温かい湯船にしばらくつかる(血管拡張し、次第に血圧↓) 5 体温があがると調節のために発汗する (発汗により脱水になり、血圧↓) 6 お風呂を上り、再び気温の低い脱衣所へ (寒さで血管収縮し、血圧↑)
上記の図のように、あまりに急激な寒さと熱さが繰り返されることで、血圧の乱高下が引き起こされます。血圧が急激に上昇した場合には、脳出血や心筋梗塞・脳梗塞が起こりやすくなります。
また、急激に血圧が下がった場合には、体の中で一番高い位置にある脳に血液がきちんと回らなくなり、いわゆる脳貧血を起こしてしまいます。
脳貧血を起こすとクラクラして転倒したり、また最悪の場合、湯船の中で意識を失って、そのまま溺水してしまったりするのです。これがヒートショックといわれる現象です。
今回は、浴室を例にしましたが、同じようなことが他の場所でも起こり、家の中では「浴室」「トイレ」「洗面所」に要注意です。
日本はヒートショック大国
上記で説明したように、家の中でも温度差が激しい場合にヒートショックは起こります。そのため、夏は起こりにくく、寒い冬に起こりやすいために、冬はヒートショックに気をつけましょう、といわれているのです。
下記のグラフは、東京都健康長寿医療センター研究所による、ヒートショックに関連した入浴中の心配停止者数を調べたものです。その発生件数は、外気温が低くなる12月から1月にかけ急激に上昇し、もっとも少ない8月におよそ10倍近くになっていることがわかります。
世界的にみても、日本はヒートショックの割合が高いといわれています。実際に、浴室でなくなった方の数を調べると、明らかに多いことがわかります。
日本でヒートショックが起こりやすい要因の一つとして、世界と比べて空調に使用するエネルギー消費量が少ないということが挙げられます。日本の場合、リビングなどは暖房を使用しますが、トイレや浴室には暖房器具がない住まいが多いのが実情です。
このような住宅環境から、トイレや浴室の室温が急激に下がった状態にあるため、ヒートショックを起こしやすいのです。
こんな方は要注意
持病
入浴の習慣
居住
ヒートショックを防ぐには
寒い季節、脱衣所や浴室を温かくすることで、ヒートショックは予防できます。また、トイレも体を露出させる場所なので温かく保つことが重要です。具体的には、以下のような対策ができると理想的です。
入浴について
トイレについて
トイレ内も暖めるのが理想
現在は、人感センサーつき電気温風器や、ヒーター一体型の天井照明など、場所をとらない暖房器具も販売されています。それらを活用して、トイレに暖房設備を設置しましょう。
須田智也:医学部総合医療学教室、杏林学園専属産業医