病院・診療科について寒さと睡眠

寒い冬と睡眠の関係

 都内でも雪が観測されるなど、いよいよ寒さが本番となってきました。 寒いと知らず知らずのうちに障害されてしまっているのが、睡眠です。朝起きるのがつらい。普段と同じ時間に目覚ましをかけているのに、なかなか起きられない。暖かい布団の中から抜け出せな い。2度寝してしまう・・・。そんな悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。 今回は、寒い時期に睡眠の質が悪くなってしまう原因、寒い朝でもスッキリ起きられる工夫についてご紹介します。

寒いと起きられないのはなぜ?

 

 冬になると朝起きるのが辛くなるのには、いくつかの理由があります。まず、みなさんが感じるように「寒い部屋よりも布団の中のほうが暖かくて快適である」ということ。 適温の環境から、寒いところに行くことは心理的にも身体的にも負担(ストレス)となります。 次に、冬は日の出の時刻が遅く、太陽の光が弱いということです。 たとえば、2017 年の東京の日の出時刻を見てみましょう。 夏至(6 月 21 日)には 4時 25 分だったのが、冬至(12 月 22 日)には 6 時47 分となり、約 2 時間半も差があることがわかります。 いつも 6 時に起きている人にとっては、夏には十分日が昇っている時間だったのが、冬になるとまだ夜の暗さということになります。 また、夏場に比べて太陽の高さも低くなるため、太陽の光自体が夏場よりも弱くなります。 朝起きたらまずカーテンを開けるように、人間は強い光の刺激で覚醒し、体内時計のズレを調整しています。 ところが冬になると窓から差し込む光が弱くなり、朝覚醒しにくくなるのです。

睡眠の質も影響する

 睡眠の質の問題もあります。夜しっかりと眠れていなければ、朝なかなか起きられないのは当然の結果です。冬は家の中の室温も下がり、体温調節が難しい季 節です。睡眠と体温調整は、とても深く関連しています。
 ヒトは、日中と比べて活動量が落ちる夜間は体温が下がりますが、睡眠中は更に体温を下げるようにして、脳のクールダウンを図っています。そのため、体の 中心の体温=「深部体温」を下げるために、手足の体温=「皮膚体温」を上げて、熱を体の外に逃します。赤ちゃんの手足が暖かくなってくると眠くなってきているサインと言ったりしますが、同じようなことが大人でも起こっています。この、「体の中心から手足に熱をシフトさせて放熱させる」ことがうまくできるように整えるのが、冬の睡眠を改善させるコツです。そのためには、

1.38-40℃くらいのお風呂にゆっくり入る

ややぬるめのお風呂に入ることによって、手足の血管がしっかり開くため、その後の体温調節がスムーズになると言われています。ただし、深部体温が上がっ た状態だと睡眠に影響してしまうので、42℃以上の熱めの入浴や、睡眠直前の入浴は避けて、寝る 60-90 分前が良いとされています。

2.暖房設定
快適な睡眠のための室温設定は、16-19℃くらいと言われており、16℃未満になってくると、塾睡眠が妨害されます。また、それ以上に室温が高すぎても、睡眠に影響が出ると言われています。

3.電気毛布や靴下を睡眠中は避ける
上記のように睡眠中は手足から熱が逃げやすくしてあげなければいけません。そのため、布団に入るまで電気毛布や靴下を使用することは良いことですが、睡 眠中は使用を避けたほうが良いと言われています。

良い目覚めのためのポイント

冬の起きにくさを解消するポイントは「温度」「光」「体温」の3つをうまく調整することです。

1.暖房器具のタイマー機能を活用する
部屋の温度が下がりすぎないように、起きる時間より少し前に暖房が入るようにしておきましょう。布団の中と部屋の温度の差を少しでも小さくして おくと、布団から出やすくなります。

2.布団の近くにすぐに羽織れるものを置いておく
暖かい布団の中から出るのは心身ともにストレスとなります。温まった体が冷えないように、すぐに羽織れるものを置いておきましょう。

3.朝起きたらまず電気をつける
起床時刻にはまだ真っ暗だという方も多いと思います。 少しでも光を浴びて頭を覚醒させるために、まず電気をつけるようにしましょう。 リモコン式 の電気のスイッチがあれば、より便利です。

4.睡眠の見直し
睡眠の項目で述べた体温調節の部分を意識して睡眠の準備をしましょう。また、体温調節以外にも、以前の「睡眠負債」でお話したように、アルコー ルやカフェイン、スマートフォンなども影響してきますので、今一度良い睡眠に関して意識しましょう。

5.とにかく体を動かす
睡眠中は副交感神経が優位となり、体温も低いため、体は休息モードにな っています。 活動するためには交感神経のはたらきを優位にし、体温をあげる必要があります。 布団から抜け出して活動を始めると、自然と交感神経が 優位となっていきますが、布団の中で体を動かすだけでも効果があります。目覚ましが鳴ったら、布団の中で手足を動かしたり、体を伸ばしたり、少し でも体を動かすことで副交感神経から交感神経へのスイッチを入れることができ、覚醒しやすくなります。

早起きは三文の徳?

 中国の古い「宋樓鑰詩」というのに書かれていた「早起三朝當一工」という文言から来ているそうです。もとは「三日間早起きすれば、一人前分の仕事にな る」という意味だったのが、日本に伝わって少し変化したみたいです。三文がどのように加わったかは諸説ありますが、以下の2つが有力と言われています。
●「土佐藩説」
 江戸時代の土佐藩、山内家の家臣「野中兼山」が洪水対策として仁淀川の下流に八田堰工事を行った際に河川敷の堤防の土を固めるため、「朝、早起きして 堤防を歩いたものに、褒美として三文の金子(きんす)を与えるものとする」というお触れを出して、皆に歩き固めるように促したそうです。(なぜ早起き して?なのかは不明ですが、多分、日中の農作業などに差しさわりが出ないように、という事なのでしょう)ここから生まれた説。
●「奈良の鹿の説」
 奈良では昔から「鹿は神の使い」として大切にされていました。特に江戸時代に出された「生類憐みのれ令」の頃は、夜の間に自分の家の前で鹿が死んでい たら三文の罰金を徴収される掟があったそうです。町民たちは朝、早起きをして、死体を見つけたらすぐさま片づけていたそうです。ここから生まれた説。三文っていくらなの?という疑問が沸きますが、現代にすると「100 円」ほどとのこと。ただ医学的にみれば、早起きはやはり健康的に良いので、100 円以上 の価値はありそうです。例えば、

「朝食を抜くと太りやすくなる 」
 日本内科学会の発表によると、朝食を食べたり食べなかったりという不規則な生活習慣がある人は、毎日食べる人よりメタボリックシンドロームになるリスク が、女性で 4 倍、男性では 2 倍程度高くなるそうです。 朝食を抜いて空腹状態で昼食をとると、血糖値が急激に上がり、体にエネルギーを余分に溜め込むことで 太りやすくなるからだといわれています。 ちなみにこの事実は以前から知られていましたが、その詳しいしくみはわかっていませんでした。しかし、つい最近、 ラットを対象にした研究ではありますが、朝食を抜くと、肝臓での脂質代謝や体温に関する体内時計が乱れ、エネルギー消費が減ることで、太ってしまうことが 明らかになりました。
 冬至を過ぎれば少しずつ日が長くなるとはいえ、まだまだ寒さは 3 ヶ月ほど続きます。 寒いから起きられない! と諦める前に、少しでも快適な朝を迎えられる よう工夫を取り入れてみてください。

2019.1
須田智也:医学部総合医療学教室、杏林学園専属産業医