病院・診療科についてカビと健康障害

梅雨の時期の水虫

 湿度がグッと上がるこの時期、特に気になる一つが「カビ」ではないでしょうか?屋内や食物にカビが生えてしまったという経験を皆様もされたことがあるかと思います。 実は、人間の体にもカビは生えます。その代表が『水虫』です。梅雨から夏にかけての高温多湿の時季は、食中毒菌だけではなく水虫の菌も活発に活動しています。だれでもか かる可能性がある水虫を知り、予防と撃退につなげましょう。

‡†今や5人に1人が水虫!

 かつて水虫は、通気性のよくない革靴を長時間履き続けることの多い男性が主にかかるというイメージが強い病気でした。 ところが、近年は、仕事をしている女性の割合の増加や、ファッションでブーツを履く女性が増加したことなどから、女性でも水虫にかかる人が増加傾向にあり、今や男性と女性の水虫の割合は同等となっています。その割合は約 5 人に1人、働く世代に限っては 4 人に 1 人が水虫と言われています。

 そもそも「水虫」って面白いネーミングだと思いませんか? この語源は江戸時代にまで遡ると言われています。農家の人が田んぼで作業する時期 になると手足に水疱(すいほう)ができて、とても痒くなったそうです。
 勿論、当時は原因がはっきり分かっておらず、水の中にいる虫に刺されたのだと思い、「水虫」あるいは「田虫」と呼ばれるようになったようで す。昔は下駄や草履を履く時代で、水虫にかかる人は非常に少なかったようですが、靴下やストッキングを付けて靴を履いて生活するようになった 現代社会では、足が蒸れて水虫患者が急増してきており、一種の現代病(あるいは文明病)とも言われています。

水虫の正体は?

 水虫の原因は白癬菌(はくせんきん)というカビの一種です。ヒトや動物の皮膚の表皮のいちばん外側の「角質層」や、角質が分化した「毛」や 「爪」などを好む性質があります。この白癬菌は暖かくて湿った環境を非常に好みますので、これから到来する梅雨のシーズンが 1 年で最も活動が 盛んな時期になります。白癬菌の活動が盛んになると皮膚の奥の生きた細胞が刺激されて、痒みや水疱などの症状が現れてきます。白癬菌は体のどこにでも棲みつくことが可能で、感染部位によって以下のように呼名が異なります。足の裏、手のひら、爪に感染して起きるものを一般的に「水虫」と呼んでいます。

足に感染することが最も多い

 白癬菌は空気感染することはないので、たとえ空気中の白癬菌を吸い込んだとしても内臓で増殖し病気になる心配はありません。
では、どのように感染が拡がるかというと、まず、水虫に感染している人から剥がれ落ちた角質を素足で踏んだりして菌が付きます。 剥がれ落ちた角質でも、その角質を栄養として白癬菌はずっと生きているので、その菌が自分の角質から入り、繁殖しやすい環境にあった場合に感染するのです。
 感染部位としては足の裏に感染する水虫(足白癬)の割合が非常に高く、全体の約 85%を占めていると言われています。ヒトの体の角質層の厚さは、大部分は 0.01~0.02mm ですが、足の裏だけは数㎜もあるため、白癬菌が住みつける 場所が豊富なのです。白癬菌を踏んで付着しやすく、角質が厚く、そして高温湿潤になりやすいという、白癬菌が繁栄しやすいベストスポットといえます。

多くのヒトが裸足で歩く場所にご注意

 上述のように、白癬菌が皮膚に付くことによって感染が起こります。そのため、スポーツジムや温泉施設、プール、ヨガスタジオなど、大勢の人が裸足で歩 く所では感染が起こりやすくなります。特に床やカーペット、足拭きマット、スリッパなどに落ちている菌が足に付着して感染します。靴下を履いていても安心 はできません。感染の機会は減りますが、目の粗い靴下だと繊維の間から菌は容易に出入りするので、感染することがあります。もし仮に、水虫にかかっている 人の足と直接触れ合ったとしても、すぐには感染しないので安心してください。 白癬菌が皮膚の表面に24時間以上付着したまま高温多湿の環境下に置かれると感染の可能性が高くなると言われておりますので、後述の予防ポイントを参照してみてください。

 

予防のポイント

 水虫は、高温と多湿という条件が整うと活発に活動を始めます。日本の梅雨から夏にかけての蒸し暑さは、水虫にとっては最高の環境といえます。以前に治療した水虫が、再度活動を始めるのもこの時季です。水虫の予防に は、「水虫が活動しにくい環境づくり」と「水虫にかかっている人からの感染防止」が最も重要です。日常生活のちょっとした注意で、感染を未然に防ぐことができますので、以下のポイントに注意してみてください。

足はできるだけ蒸れない状態に!
 白癬菌は高温多湿の環境を好みますので、足を蒸らさないようにすることが非常に大切です。靴は通気性の良い物を選び、時々陰干しして湿気を取り除きましょう。また職場では靴を脱いでサンダルに変える等ができれば理想 です。サンダルなどに履き替えられない場合は、休み時間などに靴を脱ぎ、蒸れた靴や足を乾かすだけでも効果があります。

 

足は毎日洗い、清潔に!
 白癬菌が付着しても角質層に侵入するまでに少なくとも 24 時間かかると言われていますので、足を毎日洗う習慣をつけましょう。洗い残しがあると水虫の好発部位となりますので、足の裏や足の指の間も入念に洗います。ま た靴下は一番足の皮膚と接触する時間が長いので、毎日取り替えましょう。

水虫患者が家族にいる時はバスマットやスリッパは別々に!
 水虫患者が家族内にいる時は、バスマットやスリッパを共用すると感染機会を増やしてしまいますので、別々の物を用意しましょう。またバスマット はまめに洗ってよく乾かし、常に清潔な状態で使いましょう。

床掃除はこまめに!
 水虫患者が家族内にいる時は、部屋のほこりの中にその人の落とした白癬 菌がいることが多いので、床や畳、カーペットはこまめに掃除し清潔に保ち ましょう。剥がれ落ちた角質の中に、水虫が侵入している場合、水虫は何ヵ 月も生き伸びることができるためです。

2019年6月
杏林大学医学部付属病院 救急総合診療科 任期助教 須田智也