病院・診療科について潰瘍性大腸炎ってどんな病気?

 最近ニュース等で潰瘍性大腸炎という病気をよく耳にします。原因不明で難病に指定されていると説明されることが多いようですが、一体どんな病気でしょうか?

世界2位 増加傾向にある潰瘍性大腸炎

 潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に慢性に続く炎症が起き、潰瘍などを生じる病気です。そのため症状としては粘液便、血便、下痢、腹痛などの症状が現れます。 また、皮膚や関節などの症状(腸管外合併症と呼ばれる)が現れることもあります。潰瘍性大腸炎はもともと欧米で多かった病気ですが、いまは全世界的に増加傾向にあります。 特に日本を含めた東アジア地域で増加傾向が著しく、日本の潰瘍性大腸炎患者数は推定22万人と米国に次いで世界第2位と考えられています。発症年齢は20-30歳代の比較的若い方に多いですが、各年代での発症が知られています。

 

生活に影響を及ぼす疾患

 若い世代で発症し慢性に経過するため就学、就労、結婚、妊娠・出産といったライフイベントに大きく影響します。ただ、日本の患者さんの多くは軽症にとどまっており日常生活を支障なく送ることが可能です。中等症以上の患者さんの場合では、頻回の通院と積極的な薬物治療が必要になります。また一部の薬物治療に抵抗性の患者さんや重症患者さんでは外科的手術(全大腸摘出術)が必要になることもあります。

 

内視鏡検査を

 長期間(10年以上)炎症が持続している患者さんでは大腸癌発症のリスクが上昇することも知られています。 このため、発症から8年以上たった患者さんでは定期的に大腸内視鏡検査を受けることが推奨されています。
 潰瘍性大腸炎は慢性に続く病気ですが、症状が落ち着いて健康な時とほぼ同じ状態(寛解期)と炎症が強くなり、症状がある時期(活動期)の波があります。したがって、治療目標はできるだけ速やかに炎症を抑えることで症状のない寛解期に導入し、そしてそれを維持することになります。
潰瘍性大腸炎の診断で最も重要な検査は大腸内視鏡検査です。潰瘍性大腸炎患者さんの大腸粘膜は腫れて、粘液や出血が目立ち、ただれや潰瘍が出現します。最新の考え方では症状だけでなく、大腸内視鏡所見が正常に近づくまで治すことがより良い経過のためには重要と考えられています。

 

治療は?

 基本的には手術によらない治療(内科的治療)で炎症を抑えることを目指します。薬による治療で症状が治まらない場合や出血や穿孔(腸に穴があくこと)や大腸癌合併時には、外科治療(大腸全摘など)を考慮する必要があります。内科的治療では、内服薬、坐薬、注腸薬、注射薬(点滴、皮下注射)などがあり、また血球成分除去療法という体外循環による治療方法もあります。現在、使用されている薬剤は以下の種類に分類されます。

  • 5-アミノサリチル酸製剤:ペンタサ®、アサコール®、リアルダ®など
  • 副腎皮質ステロイド:プレドニン®、レクタブル®など
  • 免疫調節薬:イムラン®など
  • 免疫抑制薬:プログラフ®など
  • 抗TNF-α抗体製剤:レミケード®、ヒュミラ®、シンポニー®
  • 抗α4β7インテグリン抗体:エンタイビオ®
  • 抗IL-12/23抗体:ステラーラ®
  • JAK阻害薬:ゼルヤンツ®
  • 血球成分除去療法としては、顆粒球除去療法(GMA; アダカラム®)
  • 各治療法の詳細、選択方法については、担当医師にご相談ください。

    担当医からの一言

     適切な治療により症状を落ち着けて維持することが大切です。ご心配なことやご不明なことがあれば遠慮なくご相談ください。


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