病院・診療科についてこれって病気?気になる抜け毛、薄毛とそのしくみ
「ぬばたまの~」という枕詞からも連想されるように、豊かな黒髪は太古の時代から若さや美しさの象徴とされてきました。
「美髪成分配合」、「発毛促進作用」をうたったケアケア製品がTV、新聞・雑誌の広告やドラッグストアで目につくことからも容易にわかるように「毛髪」は皆さんの関心を特に集めるトピックであるといえます。
通常の「抜け毛」と「脱毛症」
私たちの毛、特に頭髪は生涯にわたり「生える・抜ける」を繰り返しています。一本一本が異なる周期でばらばらに、「抜け」ては「生える」を繰り返しているため、頭髪全体では一定の量が保たれています。 問題となる「抜け毛」の量は健康な場合でも、からだの状態や、季節、さらには洗髪やヘアスタイリングの習慣などの影響をうけ日々増減します。 おおよその量は一日70-80本、100本程度までなら問題ないと考えられています。しかし、毛が抜ける量が何らかの理由でとても多くなり、特に薄毛や脱毛部分が目立つようになると「脱毛症」と呼ばれる病気にかかっている可能性を考えなくてはなりません。
脱毛症の種類
「脱毛症」はよく耳にする言葉ではありますが、一つの病気を指すものではありません。
脱毛症は大きく
① 毛をつくり出す皮膚に埋まっている毛包と呼ばれる器官が壊されてしまうもの
② 毛の抜けかわりの周期が乱れてしまい、ふだんより抜け毛が多くなるもの
に分けることができます。
円形脱毛症は本来、自分の身体を細菌やウイルスなどの病原体から私たちのからだを守ってくれるはずの「免疫」が間違って毛をつくる毛包を壊してしまうことが原因の①のグループの病気で、男性ホルモンの影響で毛の生えかわりのペースが加速してしまい抜け毛が多くなるとともに毛が小さく目立たなくなり薄毛となる男性型脱毛症は②の代表といえる状態です。
女性型脱毛症も②のグループに入る疾患ですが、男性ホルモンの影響はあまりないとされています。その他、内科的な病気(甲状腺疾患、膠原病など)や薬剤の副作用や放射線の治療などでも抜け毛が増えたり、薄毛になったりします。
典型的な脱毛症。左から円形脱毛症、男性型脱毛症、女性型脱毛症
専門医による診断を
病気で毛が抜けているかどうか、判断するのは医学の知識がないとなかなか難しいことも多くあります。特に、脱毛症は、湿疹やかぶれなどと違ってその病気の状態を皮膚の表面から観察しにくいので、単に医学知識だけでなく、かなり専門的な方法を用いないと診断にたどりつけない場合もあります。
抜け毛の根元のかたちを調べたり、特殊な拡大鏡を使って毛や毛穴の状態を観察したり、時には小さく麻酔をして皮膚をとり顕微鏡で調べるなどの工夫によって病気の状態を知り、原因をつきとめ治療に役立てるのです。
最近では、いろいろな脱毛症の治療法が進歩してきていますが、長い間治療せずに放置すると元に戻すのが難しい場合もあります。抜け毛、薄毛が心配な場合には専門の医師に相談し適切な判断をあおぐことが大切です。
※杏林大学病院の皮膚科には毛髪の病気の専門外来がありますが、受診ご希望の方も多いため、医療安全上の配慮から直接の受診(予約含む)はお受けしていません。まずは、一般皮膚科外来を初診いただき、医師の診察を受けていただくようお願いしています。
杏林大学医学部付属病院 皮膚科 診療科長・教授 大山 学