健康ひとくちメモ介護予防のために ~口腔機能のトレーニングをとりいれたレジスタンス運動の紹介~

 高齢者の日常生活において、外出の機会や活動量が減少すると、健康に大きな影響が生じます。身体機能の低下や近隣・親族・知人との社会的交流が減少すると、社会的孤立や認知機能が低下しサルコペニアやフレイル、認知症の進行が認められるようになるからです。介護予防には日常から動くことが非常に大切です。

サルコペニアとは

 加齢や疾患に伴って筋肉量が減少、筋力が低下している状態のことをサルコペニアといいます。自分で気が付かないうちに筋肉が減ると、様々なリスクが高まり、転倒や骨折などのケガの要因にも繋がります。サルコペニアは「指輪っかテスト」という自分の指を使い確認する方法があります。

指輪っかテスト

① 両手の親指と人差し指で輪を作ります
② 利き足ではない方のふくらはぎの一番太い部分を、力を入れずに軽く囲んでみましょう。(利き足はボールを蹴る方の足です。)

 隙間がある方は、日常生活の中で、転倒・骨折などのリスクの危険度が高いので、注意しましょう。サルコペニアの予防には運動やたんぱく質の摂取が有効です。

隙間がある方
危険度が高い
ちょうど掴める方
危険度は高くも低くもない
掴めない方
危険度が低い

フレイルとは

 障がいの有無に関係なく要介護状態に至る前段階のことをフレイルといいます。フレイルには低栄養やサルコペニアを含む筋力低下などの「身体的フレイル」、認知機能・意欲低下などの「心理・認知的フレイル」、閉じこもり・社会交流減少などの「社会的フレイル」の3つの要素が相互に影響をしあっています。フレイルが進行すると介護が必要になっていきます。

レジスタンス運動の紹介

 サルコペニアやフレイルの予防・治療にはレジスタンス運動が有効です。この運動は、筋肉に負荷・抵抗をかける動きを繰り返し行います。例えば、スクワット・腕立て伏せなど自分の体重(自重)を用いて行うトレーニングや、ゴム製のチューブ・ダンベルなどで負荷量を調整しながら行うレーニングがあります。
 今回は、加齢の影響を受けやすく、重力に抗して背骨や姿勢を支えている抗重力筋という筋肉のトレーニングを紹介します。これらの筋力が低下すると、お胸やお尻が垂れたり、お腹がでたりします。
 また、口腔機能のトレーニングをレジスタンス運動と組み合わせることにより、口腔機能も一緒に鍛えることができます。口腔機能が低下すると誤嚥性肺炎を発症することもあるので、口腔機能も鍛えることは大切です。
 ※「きつい」と感じたら無理せず、休みながら継続してください。

口腔機能・体幹筋のトレーニング

●深呼吸 (腹式呼吸・口すぼめ呼吸) この後の筋力トレーニング時に併用

・腹式呼吸
鼻からゆっくりお腹が膨らむのを感じながら息を吸い、次に口からゆっくり吐きます。
・口すぼめ呼吸
吐くときに口をすぼめて、お腹をへこませながらゆっくり長く息を吐きます。
Point:吐く時間は吸う時間の倍にします。

大腿四頭筋筋力トレーニング

●セッティングエクササイズ 10回1セット 1日2~3セット

座って膝を伸ばした状態で片足を上げ、5~10秒キープします。
片足を10回終了後、反対の足を10回行います。

Point:つま先を自分の方向に向けます(つま先を立てる)。

中殿筋筋力トレーニング

●股関節外転エクササイズ(座位) 10回1セット 1日2~3セット

座って脚を外に広げ、両足を浮かせます。
両手(ゴムチューブなど)で足が広がらないよう内側へ抵抗をかけた状態で5~10秒キープします。


●股関節外転エクササイズ(立位) 10回1セット 1日2~3セット

何かにつかまって立ちます。
体をまっすぐ保ち、片足を外に広げた状態で5~10秒キープします。
片足10回終了後、反対の足を10回行います。

Point:体は横に倒さず、まっすぐのままで行います。

大腿四頭筋(下肢全体の筋)筋力トレーニング

●スクワッティングエクササイズ 10回1セット 1日2~3セット

体はまっすぐのまま、足を肩幅にひらきます。
膝でつま先が隠れるところまで膝を曲げた状態で5~10秒キープします。

腸腰筋筋力トレーニング

●股関節屈曲エクササイズ(座位) 10回1セット 1日2~3セット

座って体はまっすぐにして、膝を胸に近付けた状態で5~10秒キープします。


●股関節屈曲エクササイズ(立位)10回1セット 1日2~3セット

何かにつかまって立ちます。
体はまっすぐのまま、膝を胸に近付けた状態で5~10秒キープします。
片足10回終了後、反対の足を10回行います。

下腿三頭筋筋力トレーニング

●足関節底屈エクササイズ 10回1セット 1日2~3セット

何かにつかまって立ち、つま先立ちの状態で5~10秒キープします。

さいごに

 筋力のピークは20-30歳と言われており、30歳を過ぎたころから筋力は年々減少します。しかし、高齢者であっても筋力の増強は可能です。実際、90歳以上の超高齢者であっても8週間のトレーニング後、大腿四頭筋の筋力が2倍に増加し、筋断面積も11%増加したという実績もあります。
 大切なポイントは継続です。トレーニングを3か月実施して、獲得した効果はトレーニングを休止すると、6か月でほぼ消失(元に戻る)します。効果を持続させるためには運動の継続が重要になります。
 筋肉が減り、筋力が低下していると様々なリスクが生じます。健康な生活を送るためにも、毎日、簡単にできる筋力トレーニングに呼吸法を併用して、トレーニングを行ってみてください。

2024年3月
杏林大学保健学部リハビリテーション学科
准教授 一場 友実

動画で市民講座 学びの杜 2023年度「介護予防とリハビリテーション」より)