病院・診療科についてそのせき、本当にかぜですか? ~呼吸器専門医が伝えたい「長引くせき」の見極め方~

 「かぜをひいて熱は下がったのに、せきだけがなかなか治らない」。そのような経験をしたことはありませんか。 せきは、ウイルスや細菌、ほこりなどの異物が気道に入り込んだときに、それらを体の外へ排出しようとする大切な防御反応です。そのため、かぜをひいた後にしばらくせきが続くこと自体は珍しいことではありません。 しかし、長引くせきの背景には、単なるかぜではなく肺炎などの呼吸器感染症が隠れていることがあります。呼吸器内科の診療では、「かぜだと思っていたら肺炎だった」という患者さんに出会うことも少なくありません。

かぜと肺炎の違い

 一般的なかぜは主に鼻やのどなどの上気道に炎症が起こる病気です。一方、肺炎は肺の奥にある気管支や肺胞に炎症が起こる病気で、重症化すると入院が必要になることもあります。
 かぜは、鼻水、のどの痛み、くしゃみなどが主な症状で、多くは1週間程度で回復します。これに対して肺炎は、

  • 高熱が続く
  • せきがなかなか治らない
  • 痰が増える
  • 息苦しい
  • 胸が痛む
  • 強いだるさがある
といった症状がみられます。
 特に高齢者では発熱が目立たず、「何となく元気がない」「食欲がない」といった症状だけの場合もあるため注意が必要です。

長引くせきに注意

 長引くせきの原因として、近年特に注目されているのが「百日咳」と「マイコプラズマ肺炎」です。百日咳はその名のとおり、数週間から数か月にわたりせきが続く感染力が非常に強い感染症です。発症するまでの潜伏期間は最大21日間あり、ゆっくり症状が出てくることがあります。百日咳は、ワクチンによる予防が有効な感染症なので、就学前(4-5歳) と中学生(11歳~12歳)に三種混合ワクチンの予防接種(任意)は可能な限り受けましょう。
 また、マイコプラズマ肺炎は小児から若年成人に多くみられ(60歳未満がかかりやすい)、せきや発熱、気道の炎症を伴います。いずれも初期にはかぜと区別がつきにくいため、症状だけで判断するのは簡単ではありません。

マイコプラズマ肺炎

 マイコプラズマ肺炎は「肺炎らしくない肺炎」ともいわれます。通常、肺炎では聴診器で肺の異常な音を確認できることがありますが、マイコプラズマ肺炎は肺の音が比較的きれいに聞こえる場合があります。「肺の音はきれいなのにせきが止まらない」「高熱でぐったりしているけれど、聴診器では異常がない」といった場合は、胸部レントゲンやCT検査を行うと肺炎の所見が認められることがあります。専門医が問診や検査結果を総合的に判断することが重要です。
 また、マイコプラズマ肺炎が中耳炎や皮疹、脳梗塞の合併症を引き起こすこともあるため、注意が必要です。
 特に小さなお子さんがマイコプラズマ肺炎や他の呼吸器感染症にかかったとき、悪化のサインとして「呼吸の異常」は非常に重要なポイントになります。たとえば、呼吸が速くなっていたり、胸がへこむような呼吸をしていたり、ぐったりして顔色が悪いような場合には、すぐに医療機関を受診していただきたいです。

予防の基本は「当たり前」の積み重ね

 呼吸器感染症の予防には、

  • 手洗い
  • 適切な換気
  • マスク着用
  • 十分な休養
などの基本的な感染対策が有効です。
また、周囲の人にうつさない「咳エチケット」も大事です。

 

まとめ

 かぜと思っていても、せきが長引く患者さんの中に治療が必要な肺炎が隠れていることが少なくありません。
次のような場合は、早めの受診をおすすめします。

  • 呼吸が浅く荒い(20回/分を超える)
  • 38℃以上の発熱が続く
  • 激しい咳、痰がからむ
  • 息を吸う時の胸の痛み
  • 普段より強い倦怠感がある
 長引くせきを軽視せず、早めに医療機関(呼吸器内科または内科)を受診することが、重症化を防ぐ第一歩です。


2026年9月
杏林大学医学部呼吸器内科学
教授 皿谷 健
(医学部付属病院 呼吸器内科
(※動画で市民講座 学びの杜 2025年度「肺に関わる感染症」より)