大学ホーム外国語学部一般の方論文・翻訳コンテスト第2回翻訳部門(日本語→英語)講評

論文・翻訳コンテスト

翻訳部門(日本語→英語)講評

外国語学部准教授 伊藤 盡

日本語→英語の翻訳課題は、力作揃いであったが、同じような答案が重なっていたのが残念であった。できる限り独力で英文を考えて頂きたい。協力して翻訳していけないことはないが、英語として不自然であったり、間違いまで共有しているのははたして良いことかどうか?

一方、優秀な翻訳作品に共通して見られたことは、日本語を直接英語とするのではなく、英語として自然な表現を努めて探そうとしていることだった。和英辞典を引いても、日本語というのは文脈によって意味が異なる。「もとより」という日本語は様々な意味があるが、課題文における意味は決して ‘from the beginning’ という意味ではない。英語に翻訳するという作業は、日本語の独特の表現を英語の表現で表すものだから、文字通りに訳すことは意味がないのである。その意味で、at any rate, や of course がいいだろう。また、綴りのミスなども散見された。提出前に綴りのチェックは行って欲しい。

課題文で特に注目したポイントは、@日本語の「言い間違え」をいかにして英語でも「言い間違え」らしく表現するか、ということと、A日本語の「火花が日頃見慣れたものの異なる相貌を照らしだすように、失言は常識という名の秩序を一瞬だけ攪乱するのだ」というロジックを英語のロジックでいかに表現するか、という2点である。特にAのロジックは日本語独特の言い回しであり、論理的には辻褄が合わないが、日本人は「日頃見慣れたものの異なる相貌」が「秩序の攪乱」に繋がる道筋を補ってこの文を読む。しかし、これをそのまま英語にしたのでは意味が通らない。英語に翻訳するということは、論理的にも意味の通るように言葉を言い換えねばならない。

山崎(以下敬称略)の優秀作品では、@のポイントが出色の出来であった。地震と津波の語順を間違えただけで意味の転倒が起こってしまうおかしさをよく伝えていると思う。またAのポイントも英語として自然なロジックとなっていて、見慣れたものの ‘differences’ や ‘unfamiliality’ が ‘confusion’ をとなって、笑いを生むための ‘unexpected distortion’ に感じられることを、名詞のヴァリエーションで表現しているところが素晴らしかった。

奨励作品の市川もポイント@をうまく処理している。けれど、 hearing this を ‘not’ の後に続けると意味の誤解が生じやすくなること、from the beginning の使い方、ポイントAのロジックの甘さが問題となった。英語を日本語に置き換える能力は高いと思うので、これからは意味を考えながら「翻訳」に挑んで貰いたい。

奨励作品の山崎はポイント@の処理にもたついたようだ。この英語ではもともと何を言いたかったのかがわからない。けれどポイントAにおいては自分なりに工夫を試みて、「火花」を ‘flame’ に置き換えて、「炎の中で見えるもの」という表現に変えようとしている。翻訳を行う心構えとして大切な柔軟性があると思われた。ただし、 ‘in flame’ という表現自体には「燃えている」という意味があることもチェックしよう。奨励作品は、どちらも欠点はあるが、英語としての自然さを求めていたことから、今後の精進を期待して激励を送るという意味を込めて選出した。

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