大学ホーム外国語学部一般の方論文・翻訳コンテスト世界に広がる熱い力

論文・翻訳コンテスト

世界に広がる熱い力 石岡奈未可

太陽が海に沈み、月がやっと顔を出し始めた夏の夜、ねぶた小屋からぞろぞろと、まだ真っ白なねぶたが太鼓の音に合わせて出陣してきた。はねと達が、シャンシャンと衣装に付けた鈴を鳴らして集まってくる。

月がようやく輝き始めた頃、ねぶたにもようやく光が入った。まるで魂が入ったかの様だ。ねぶたは、今にも動き出したそうに、祭りが始まるのを今か今かと待っている。

「ドンッドンッ」

祭りの開始を知らせる花火が空に鳴った。いよいよ、青森ねぶた祭りの始まりだ。おはやしに合わせて沢山のねぶたも、大勢のはねと達も一勢に踊り出す。ねぶたは、先導者の合図で、ねぶたを引っ張る人達によって、前に傾いたり、くるりと回転したり、まるで生きているかの様だ。

はねとは、「ラッセーラー」のかけ声をかけながら、ねぶたの前で衣装の鈴を命一杯鳴らしてはねる。年齢や性別関係なく、皆一緒になって祭りを楽しむ。

おはやしは、この日の為に約一年かけて練習をする。鉦を叩く人、笛を吹く人、太鼓を叩く人、それぞれが一つになって、軽快なおはやしのリズムを刻むのである。

日本の代表的な夏祭りの一つである青森ねぶたは、お盆の死者を迎え、そして見送る灯籠流しが発展したものだと言われている。ねぶた祭りの最終日に、ねぶたを船に乗せ、海に流すのも、その灯籠流しから来ているのだろう。

北国の祭りは、夏に盛大に行われる。冬には雪が降り、交通の便が悪いことなどから、夏に盛大に盛り上がるのだ。

ねぶたは、ねぶたを描く絵師が、題材を決め、下書きをする。手伝い人が、はり金で骨組みを作り、和紙を張る。そして、絵師が墨入れという作業で絵の輪郭を書いていく。そして色付けをし、完成する。この作業を約半年かけてするのである。一つ一つの作業に神経を集中させ、心を込めて作られたねぶたには、その作った人々の思いが浮き出ている。それぞれのねぶたに表情があり、魂が宿っているのである。

おはやしに使われる太鼓、笛、鉦はすべて伝統工芸品である。太鼓の叩く面は、馬の皮で出来ていて、側面は、青森ヒバで出来ている。笛は、おはやしの種類によって、全て長さが異なる。鉦は、職人さんが、金槌で何日もかけて叩き上げる。太鼓、笛、鉦、一つ一つに職人さんの心が入っているのである。そのおはやしに合わせ、ねぶたが夜の街を踊り歩く。はねと達が鈴を鳴らして勢い良くはねる。街中が祭りの熱気で包まれている。この熱気を感じる為、日本全国から人々が集まってくるのもこの祭りの特徴の一つだろう。

毎年、ねぶた祭りになると、青森への道を沢山のバイクがエンジン音を鳴らして、何メートルもの列をなして走ってくる。バイクで遠くからくる人々は、会社員や夫婦、若い人から年配の方まで、ねぶた祭りの為に日本全国各地から集まるのである。毎年同じ顔ぶれが揃うと、そこでまた人と人との輪が広がる。ねぶた祭りが終わると、「また来年、この地で会おう」と言って、またバイクに乗りそれぞれの土地へ帰っていく。

ねぶたの魅力は、人と人との関わりの中にある。ねぶた絵師、太鼓や笛、鉦を心を込めて作る職人達、心を一つにおはやしを奏でる人々、そして全国から集まるはねとの人々。それぞれの立場から、ねぶたにかける思いが一つになり、人々の熱く、そして力強いエネルギーこそがねぶた祭りなのだ。

そして、去年、ねぶたが海を渡り、隣の国、韓国の地でねぶた祭りが行われた。(ねぶた祭りを世界の人と共に)という一人のねぶた絵師の思いから企画された。韓国の人々も、初めはねぶたの迫力に圧倒されていた様子だったが、おはやしのリズムに合わせて、はねとの人達と一緒になって祭りを味わうことが出来た。沢山の人々が集まり、多くの韓国の人と共に楽しい時間を過ごすことができた。

いつか、世界がこのねぶたの様に、それぞれの立場から心を一つにして、熱く力強いエネルギーで包まれたらいいと思う。

このページのトップへ

PAGE TOP