大学ホーム外国語学部一般の方論文・翻訳コンテスト「小学校英語」の必修化について

論文・翻訳コンテスト

「小学校英語」の必修化について 森山亮

はじめに

二〇〇六年三月二十八日の新聞は、中央教育審議会の教育課程部会が報告書をまとめ、小学五年生から英語を必修化すべきであると提言した事を報道した。
その報告では、「小学校における英語教育の充実の必要性と検討すべき課題」として次の事項を挙げている。

  • 小学生の柔軟な適応力を生かす事による英語力の向上を図る。
  • 小学校での英語教育については、国際的にも急速に導入が進められている。
  • 保護者や行政関係者からも必修とすることについて積極的な解答が多く寄せられている。
  • 次世代を担う子どもたちに国際的な視野をもったコミュニケーション能力を育成する必要がある。
  • 小学生における総合的な学習の時間等で英語活動が行われているが、活動内容や、授業時間数に相当なばらつきがある。特に中学校教育との円滑な接続を図る必要がある。

などである。
このことについて、私は、理念として理解できるものの、現実的には課題が多いと考えたい。そこで以下の諸点を考えてみたい。

 

「小学校英語」必修化の課題

  1. 小学校で充実させるべきものは何か。

小学校に「総合的な学習の時間」が導入されている。第三学年・四学年が年間それぞれ一〇五時間、第五学年・六学年が年間それぞれ一一〇時間である。一方、第六学年の「国語」が年間一七五時間、「算数」が年間一五〇時間となっている。小学校の先生方が、教科の時間が足りないと嘆いているし、学力低下の問題にも関係してくる。まず重視すべきものは、これまでの教科の時数の充実と、学習内容の充実であろう。

また、コミュニケーション能力の育成といわれるが、「英語」を導入しなければならないというものでもない。日本語によるコミュニケーション能力は十分に育てることができるはずである。その基礎となる「対話・会話・話し合い・討議討論」等の能力の育成こそ小学校で充実させるべきである。

さらに、小学校では、「豊かな心を育む教育」「論理的思考力を育む教育」の充実を図るべきである。

  1. 「小学校英語」を誰が教えるのか。

日本には現在二三〇〇〇校ほどの小学校があるといわれるが、それぞれの学校の、それぞれの学級で担任が指導するのだろうか。一校に数人の英語専科の先生がいて指導するのだろうか。それとも、ALTが各校に配置されるのだろうか。指導するのにふさわしい先生を指導に当てられるのか。

今年(2007年)七月五日の読売新聞(朝刊)に「小学校の英語教育、先生も自信なし」という見出しで、アンケート調査の分析結果を掲載していた。そこには、

  • 小学校の英語活動を担当する教育のほとんどが、「指導法が分からない」「英語力に自信がない」等の悩みを抱えている。
  • 具体的に困った点として、「指導内容」「カリキュラム」「教材」「自分の英語力」「英語の指導力」
  • 「うまく指導できず、英語嫌いの児童を増やしてしまった。」といった記述があった。

といった記述があった。
現実に、英語を指導すべき教師に全く自信がないといってよいのである。

  1. 親や社会の要求に振り回されていないか。

親は我が子の将来を考え、幼いころから英語学習に取り組ませる。教育行政側は、「話せる英語を」と努めている。また、教育産業がこうした風潮をとらえて、さまざまな企画を宣伝している。「小学校英語」必修化の動きも、こうした社会の動向を受けてのものであって欲しくない。本来の英語教育の目的を検討し、見定めていきたいものである。目的を明白にした真の英語教育でありたい。

  1. まとめとして

小学校英語教育の目的を「@母語教育と連携して、言語のおもしろさ、豊かさ、怖さを学習者に気づかせる。A言語は人間にだけ、しかも、人間に平等に与えられた、種の特性であり、言語に優劣はないことを学習者に気づかせる。」としている学者がいる。このことは、英語教育の基礎、基本ととらえ、私自身の英語学習の基盤として考えていきたい。

(参考文献)
・「小学校学習指導要領解説」文部省
・「どうする?小学校英語必修化」太田美智彦 
・「小学校でなぜ英語?」大津由紀雄・鳥飼玖美子
・「特区に見る小学校英語」瀧口優
・「危うし!小学校英語」 鳥飼玖美子

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