大学ホーム外国語学部一般の方論文・翻訳コンテスト第4回論文部門(タイトル)講評

論文・翻訳コンテスト

第4回論文・翻訳コンテスト総評 准教授 伊藤盡

 杏林大学外国語学部が論文・翻訳コンテストを始めてから、今年で四年目を迎えます。今回の応募も総数500点近くに達し、高校生のみなさんが持てる力を充分に発揮した努力の結晶の輝きに目を奪われました。応募して下さったみなさんにお礼を申し上げるとともに、これからもこのようなコンテストへの意欲を見せて、切磋琢磨して自分を磨いて戴きたいと思います。

 翻訳部門についての総評を一言申し上げます。翻訳はそれに携わる人の多くが、言葉の魅力と難しさにいつも引き寄せられ、苦しめられるものです。高校生の時から、その魅力と難しさに心惹かれ、翻訳という分野に興味を持つことは、将来、翻訳の道に進むことになる第一歩といえます。現在は完璧なものを目指すのではなく、多くの教養や知識、語学的な基礎力をつけて戴きたいと思います。しかし、漠然とそのようなものが身につくわけではなく、やはり「翻訳」に挑む中から自覚が生まれたり、これまで見えてこなかったものに目が開かれるということを経験するものです。

 具体的には、日本語から中国語への課題文では、日中の長い文化の交流を意識し、日本文化がそのような中から生まれ、培われたのだということに目を向けるようになって戴きたかったわけですが、翻訳作品の中で、そのようなことに関心を向けたことへの喜びや驚きを読みとることができました。中国語から日本語への課題文では、日本の昔からの隣国である中国に住む人々の、日本とは異なる風土や気候の中から出てきた生の声を如何に日本人が理解するかという問題に、課題に取り組んだ諸君は直面したことでしょう。日本語から英語への翻訳の課題文は、最近、杏林大学から名誉博士号を授与されたドナルド・キーン氏の日本文学への論考から採られました。氏は日本文学を世界に紹介する労を担われましたが、私たち日本人自身が、氏の考察から学ぶことも多いのです。是非、氏の他の著作も読んで、「外から見た日本」というものへの目を開いて欲しいと思います。最後に日本語から英語への翻訳ですが、これまでも、そしてこれからも日本のことを世界に発信する必要は不可欠です。残念ながら、これまではあまり発信する機会には恵まれてこなかったかもしれませんが、時はインターネットの時代です。日本のことをどのように理解して貰うか、ということを考えながら、英文にして発信するという実際の行為をこれからも実践して欲しいと思います。

 どのような翻訳にも、それぞれの言語の持っている特徴や性質があります。それは、その言語を使うネイティブであっても、普段は意識せず、わからないことが多いのです。例えば、日本人でも「美しい日本語」を書ける人はまれだという事実がそれを裏付けるでしょう。母語である日本語の力を増し、同時に外国語に熟達する。そのような名人になることを是非、今から目指して戴きたいと思います。

 論文部門では、「メールの日本語」「スポーツイベントの魅力」「映画の魅力、本の魅力」という3つの課題に、総計231本の応募がありました。どの論文にも、自分の考えを述べることの楽しさと難しさを高校生の皆さんが味わっている臨場感がありました。1つ気になったのは、どの「論文」も「エッセイ、随筆」のような文体や論調で書かれていることが多かったことです。論文とは、そもそも自分の考えを述べるだけでなく、それを如何に客観化し、普遍的な論へと発展させるものです。そのために参考にするいろいろな意見を自分で読み、取材することも必要になるでしょう。その上で、自分の考えがどのような位置にあるのか、自分にとってもっと考えるべきことはないのかを見つける作業が待っています。その作業は必ずしも一朝一夕に身につくものではありません。若い高校生の時代から、そのように考える術を、是非身に付けて戴きたいと思います。

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