大学ホーム外国語学部一般の方論文・翻訳コンテスト第4回論文「ライク・ア・ローラーコースター」

論文・翻訳コンテスト

ライク・ア・ローラーコースター 山本 愉香

 映画はジェットコースターに似ている。遊園地と映画館という特別な「場」に出向く点や、誰かと一緒に体験を「共有」できる点においても。最も興味深い共通点は、計画された「リズム」を受動する点である。これは、映画と本の差でもある。私は、映画の魅力を、ジェットコースターに例えたり、本と比較したりすることで考えてみた。
 映画の魅力は、決められたリズムを受動する気持ちよさだ。ジェットコースターと同様、座席にすわると、あとはすべて向こうの計画通りのペースで進行する。あの身をゆだねる感じが、自分で選ばなくてよい心地よさと、自分で選べないスリルを際立たせる。読書とちがって、「どこまで読もう?」、「もう少し静かな場所に移動しようかな?」という迷いはいらない。
 本にはない、映画ならではの心を動かすリズムが四つある。一つ目は、全体の所要時間。映画の所要時間は、大抵、一時間半前後である。そして、その長さは人の集中力を最大限に引き出す。心理学者の和田秀樹氏や脳科学者の茂木健一郎氏が異口同音に語ることには、約50分でピークになる集中力を効果的に活かするためには、90分から120分作業を続ける必要があるそうだ。二つ目はプロットと時間配分。ヒット作品を研究した、映画監督のウェンデル・ウェルマン氏が著書、「映画ライダーズロードマップ」で紹介しているのだが、どの映画にもプロットの転換点となる大きな激突シーンが三回あり、それは、25分ごろ、60分ごろ、85分ごろというパターンがあるそうだ。試しに、映画「TAXI NY」と「フライトプラン」を観る時に、鉛筆を片手に、時間を計ったら、この法則がまさに当てはまったので、驚いた。三つ目は音響。一本の映画の中で、同じバックグラウンドミュージックが話の随所に挿入されると、統一感が生まれて心地よく感じる効果がある。そのようなことを、「映画技法のリテラシー」で昔読んだ。だんだん音楽が、何かの重要な記号のように感じられるのだ。ジム・ジャームッシュ監督の「ミステリートレイン」と小津安二郎監督の「東京物語」で私はそのような体験をした。四つ目は、編集による映像のリズム。特に、細切れのカットがすばやく切り替わるような編集は、興奮させられる。私が観た映画の中では、ティム・バウキワー監督の「ラン・ローラ・ラン」のテンポが忘れられない。
 一方、映画の欠点は、知りたい情報をピンポイントで調べるのには向かないことだ。たとえば、私は、敬愛する写真家、アンリ・カルティエ=ブレッソンを特集したドキュメンタリー映画を観て、伝記を読んだことがある。本を読むと、映画では触れられなかったアンリ・カルティエ=ブレッソンの過去、人間関係、考えが詳しく分かった。しかし、そもそもその写真家に興味が湧いたのは、そのドキュメンタリー映画にレンタルビデオ屋さんで出会ったことがきっかけだったのだ。
 また、映画の欠点として、本のような、いつでも、どこでも、マイペースで、という自由がないことが挙げられるかもしれない。しかし、DVDの出現により、高価なノート型の機械があり、電気がつながれば、持ち運びの問題はほぼ解決される。また、DVDで観る場合は、巻き戻し、早送り、一時停止、倍速再生、最後に止めたシーンがわかるブックマーク機能があるから、自分のペースに合わせたければ可能だ。

 結局、映画の美点は、体感するリズムだと思う。現在私は幸運にも気軽に映画を観られる環境に恵まれている。これからも、たくさんの映画を享受したい。
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