大学ホーム外国語学部一般の方論文・翻訳コンテスト第5回翻訳部門「英語課題→日本語訳」講評

論文・翻訳コンテスト

第5回翻訳部門「英語課題→日本語訳」講評 教授 稲垣大輔

 第5回論文・翻訳コンテスト、翻訳部門(英→日)に多数ご応募くださり、ありがとうございました。この部門は昨年度の応募数が212件、今年度が447件と倍増しました。審査員一同、嬉しい悲鳴を上げました。フランクリンという亀を主人公にした英語の絵本から出題したことが功を奏したのだと察しますが、応募動機の中には、「児童英語教育に興味があるため」「絵本の翻訳に興味があるため」など、主催者の意図に沿った応募が数多くあり、力作揃いで審査には時間を要しました。

 今回の課題文は絵本から抜粋したものですから、挿絵があれば訳しやすかったでしょうが、平易な英語とはいえ、読者、つまり児童を意識したわかりやすい日本語に訳すには工夫が必要です。応募してくださった皆さんにとっては英語を読んで絵を想像しながら訳した作品、逆に審査員にとっては日本語の訳文から絵が想像できるような作品が、優れた作品と呼べると思います。その意味で、選出された作品はどれも、私が挿絵作家であればすぐに絵をつけたくなるような訳文でした。改めて入賞者の皆さんの想像力に敬意を表したいと思います。

 では、課題文の英語を見ていきましょう。冒頭部分のcount by twosは two に複数形の -s が付いていますから、「2、4、6、8・・・」と2ずつ数えることです。2行目にはお馴染みの構文が出てきますが、 so excited は「興奮しすぎて」と訳すよりは、読者の年齢層を意識して「わくわくしすぎて」と訳すと良いでしょう。第3段落の “Big dinosaurs,” she emphasized. ではビーバーはどこを強調したのでしょうか? Bigがイタリック体(斜体)になっていることに気付きましたか?そうです。Big を強調したのです。そこをうまく訳せているかもポイントです。勿論、「強調」などということばは訳では使わない方がいいでしょう。次の文のwas afraid to askはafraidの前にtooがあればわかりやすかったでしょうが、to askと不定詞になっていますから、まだ尋ねていない、尋ねることができなかったのです。

 <中略>の後の場面は、絵が思い浮かぶような訳文を期待しました。第2文の He was looking right into the bony mouthのrightは「右」ではありません。into the bony mouthを修飾する強意の right です。フランクリンの目の前にティラノサウルスの口が迫ってくるような訳文が欲しいところです。因みに、主語のheを「彼」と漢字を使って訳すのは絵本では論外でしょう。次の段落の “You sure do” は本課題で最も頭を悩ます箇所です。カタツムリのスネイルは誰に対して “You sure do (= make good jokes)” とつぶやいたのでしょうか?ほとんどの応募作品はyouがフランクリンと解釈していましたが、スネイルはフランクリンをからかったビーバーに対して、「からかったのはきみだろ」「きみこそ」とビーバーに聞こえないようにつぶやいたのではないでしょうか?<中略>の前でフランクリンから話を聞いて一緒に怖がっているスネイルにすれば、ビーバーにこう言いたくなるのも無理がないのでは?

 最後の部分はフランクリンの「あどけない」性格を訳出できるかどうかが鍵です。mummyは「ミイラ」ですが、mommy「ママ」と同音ですから、フランクリンはビーバーが言った mummyが何であるのかわかっていないのでしょう。 “Is it real?” 「それって本物?」と聞いていますが、ママのようなもの(ヒト)が中にいると思い込んでいるのでしょう。最後の文のherは当然ママのことです。

 今回選出された4作品はどれも甲乙つけがたいものでしたが、優秀賞の梶田唯さんの作品は、上述のポイントをほぼ完璧にクリアした見事なものでした。諮らずも梶田さんのみが3年生で、奨励賞になった3名の方は高校在学中にまだまだ研鑽の機会がありますので、大いに期待しています。

 翻訳は、表現に託された原作者の意図を正確に汲み取る必要がありますが、常に読み手を意識して、原作者同様、訳文で読み手に胸トキめかせることができるかどうかが腕の見せ所です。フランクリンのように、博物館に出かける前に「ワクワク」、未だ見ぬ恐竜に「ハラハラ」「ドキドキ」させられるかどうか。

 特に今回の課題の絵本のようなものは、訳文の優劣は我々大学教員などが決めるのではなく、絵本を読む年頃の子どもたちにお願いすべきものです。私が絵本を出版する出版社の人間であれば必ずそうしますが、それはそれとして。今回、応募してくださった全ての高校生の皆さんの意欲と想像力を称えたいと思います。審査にあたって、高校生らしいみずみずしい感性を満喫させていただきました。ありがとうございました。

このページのトップへ

PAGE TOP