大学ホーム外国語学部一般の方論文・翻訳コンテスト第5回翻訳「中国語課題 → 日本語訳」

論文・翻訳コンテスト

中国語課題 → 日本語訳 兵庫県立芦屋国際中等教育学校 五年 小山誠司

 これは20年以上も前の話になる。当時、私は中学に入学してまだ間もない頃だった。
ある日の午後、授業が終わり、皆それぞれ帰る用意をしていた。突然、同級生の李青がけたたましい叫び声をあげた。
「ワァー!僕の万年筆がない!」全員が思わずビクッとした。
「あのペンは新品だったんだ!」李青は仏頂面でそう言った。「僕がひと夏草刈りをした引き換えにやっともらえたんだ!持っていったやつは早く返してくれ!」
ちょうどその時、先生が来てくれた。先生はみんなにしばらく残るようにと言って、それぞれの席に着かせると、各自、自分のかばんの中に間違って李青の万年筆を入れてないかどうかチェックさせた。我々は自分のかばんを開け、しかも文房具をすべて机の上に広げた。李青は順番に机を検査していった。李青が私の机の前に来た時、突如、彼の目がキラッと輝いたかと思うと、わたしのペンをガシッとつかみ「あった!これだ!」と高らかに叫んだ。この一発でたちまちクラス全員の視線が私に向けられた。私はうろたえた。紛れもなくこれは私のペンなのに、なぜ彼はそれを自分のだと言いやったのだろうか?
  李青は確かに間違えていた。このペンは私のものだ。私が中学に合格した時、都会まちで働いていた伯母がわざわざプレゼントしてくれたものだ。しかし、いくら私がそう言っても誰一人信じてくれなかった。誰もがこれは私の作り話だと思っていた。結局、ペンはやはり自信満々の李青に持っていかれた。私はペンを失っただけでなく、周りからコソ泥だと思われたのだ。濡れ衣を着せられて私は只々泣きたかったが、怒りを抑え、我慢した。例え自分が泣いたとしても演技だと思われると分かっていたから。
  この騒動はすぐにおさまったが、それが残した暗い影が。
  光陰矢の如し。あっという間に中学を卒業する時がやってきた。
  卒業式当日、李青は突然私を少し離れたところに連れて行った。そこで一本の万年筆を私に渡した。
「これは君のペンだ。返すよ。あの日は確かに僕が間違っていた。本当にゴメン」彼はきまりが悪そうに言った。
あの日、彼は自分の万年筆をかばんのポケットにしまっていて、その日の晩に見つかったという。彼は当時、わざと私に罪を着せたのではないかと同級生に言われるのが怖くて黙っていたのだ。しかし、この事件はずっと彼の心に重くのしかかっていた。卒業間近になって彼は、もうこれをずっと心に押し込めることはできないと感じ、勇気を振り絞り、ついに本当のことを告白したのだ。
 許してほしいと彼は頼んだ。
 私は高ぶる気持ちを必死に抑えて軽くこう言った。――――「平気さ」

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