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診療放射線技術学科 関准教授、臨床検査技術学科の岡田教授がフラン脂肪酸の生物活性の一環として活性酸素種捕捉効果を実証 ― 新しい抗酸化物質の開発・応用への期待 ―

2023年04月26日

筆頭著者 関健介 (保健学部 診療放射線技術学科 准教授)

責任著者 岡田洋二 (保健学部 臨床検査技術学科 教授)

研究のハイライト

  • フラン脂肪酸が活性酸素種(Reactive oxygen species, ROS)の一種である一重項酸素(1O2)を、天然由来の抗酸化物質であるビタミンEよりも効率よく捕捉*1することを確認しました。
  • フラン脂肪酸による1O2捕捉効果は、フラン脂肪酸のフラン環に置換しているアルキル基の数によって異なることを見出しました。
  • 分子軌道(量子化学)計算により、フラン脂肪酸の最高被占軌道の電子が、1O2の最低空軌道に移行することによって1O2を不活性化すること明らかにしました。
  • 本研究結果は、生体内で発生した1O2による障害を抑制することが出来る抗酸化物質の開発・応用に期待されます。

概要

保健学部 診療放射線技術学科の関健介准教授と臨床検査技術学科の岡田洋二教授は、天然微量成分として広く存在しているフラン脂肪酸が、ROSの一種である1O2による生体障害を効率的に抑制する抗酸化物質として作用する可能性を示しました。また、分子軌道計算から得られた量子化学的特性を解析することによって、フラン脂肪酸による1O2捕捉作用メカニズムを検討した結果、フラン脂肪酸のフラン環に局在する最高被占軌道(HOMO)*2の電子が、1O2の最低空軌道(LUMO)*3に移行することによって1O2を不活性化することも明らかにしました。この研究成果は、フラン脂肪酸が生体内で発生した1O2や他のROSによって引き起こされる生体障害を抑制することが出来る抗酸化物質としての開発・応用が期待できるものです。なお、この研究成果はJournal of the American Oil Chemists’ Society誌の電子版に,2023年3月11日に先行公開されました。

掲載URL:https://doi.org/10.1002/aocs.12693

背景

フラン脂肪酸は、脂質中の微量成分として天然に広く分布していますが、その生物活性が未だ明らかにされていない脂肪酸で、アルキル4置換体フラン環を分子内に有する新規脂肪酸の総称です(図1)。以前、著者らはフラン脂肪酸がROSの一種であるヒドロキシルラジカル(・OH)やペルオキシルラジカル(ROO・)を効率よく捕捉する抗酸化物質として作用することを初めて明らかにしました。しかし、積極的な研究が進められているにも関わらず、フラン脂肪酸の生物活性やその起源さえも未だに明らかにされていません。

そこで、著者らは抗酸化物質としてのフラン脂肪酸の開発・応用を目的として、ROSの一種である1O2に対するフラン脂肪酸の捕捉効果について検討を行いました。1O2が生体内で発生すると、生体の必須成分である脂質、タンパク質、およびDNAなどと速やかに反応し、生体組織に障害を与えることが知られています。現在、1O2を含むROSによる生体障害を抑制する目的で、これらのROSを効率よく捕捉出来る抗酸化物質の役割に注目が集まっています。本研究の目的は、フラン脂肪酸が1O2を捕捉することが出来るのか、1O2を捕捉することが出来るのであればどの程度の速度で捕捉出来るのか、さらに、フラン脂肪酸が1O2をどのようなメカニズムで捕捉しているのかを解明することです。

研究概要

本研究では、まず、1O2発生試薬から生成する1O2が、フラン脂肪酸によって捕捉されるかどうかを分光学的手法によって検討しました。その結果、フラン脂肪酸が1O2を濃度依存的に捕捉することを確認しました。

次に、ナノ秒時間分解レーザーフラッシュフォトリシス装置*4を使用して、1O2の発生と1O2が消出する際に生じる燐光を近赤外検出器で測定することにより、1O2に対するフラン脂肪酸の捕捉速度-二次反応速度定数-を求めました。その結果、フラン脂肪酸は、天然由来の代表的な抗酸化物質であるビタミンEよりも高速度で1O2を捕捉し、その捕捉速度もフラン脂肪酸のフラン環に置換しているアルキル基の数によって異なることも分かりました。

最後に、フラン脂肪酸による1O2の捕捉メカニズムを、非経験的量子化学計算ソフトであるFireFly(PC GAMESS)を使用して検討を行い、フラン脂肪酸のフラン環に局在しているHOMOの電子が、1O2のLUMOに移行することによって1O2を不活性化させていることも分かりました(図2)。その結果、フラン脂肪酸のフラン環に1O2が付加することによってエンドパーオキサイドが生成し、さらに自発的に反応が進んでジケトエンが生成することも分かりました(図3)。

研究の意義

 本研究では,フラン脂肪酸がROSの一種である1O2を、天然由来の抗酸化物質であるビタミンEよりも効率よく捕捉することを初めて明らかにしました。著者らは既にフラン脂肪酸がROSの一種である・OHやROO・を効率よく捕捉することを明らかにしていることから、今まで不明な点が多かったフラン脂肪酸の生物活性の一つとして、ROSによる生体障害を抑制する可能性が示唆されました。

掲載論文

発表雑誌名

Journal of the American Oil Chemists’ Society

論文タイトル

Singlet oxygen quenching activity of furan fatty acids: Kinetic and thermodynamics study

著者

Kensuke Seki1, Youji Okada2*

著者(日本語表記)

関 健介1、岡田洋二2*

*責任著者

所属

1. 杏林大学 保健学部 診療放射線技術学科,2. 杏林大学 保健学部 臨床検査技術学科

用語の解説,注釈

*1 ここでの捕捉とは1O2やROSを不活性化することを表しています。

*2 電子が入っている軌道のうち、最もエネルギーの高い分子軌道をいいます。

*3 電子が入っていない軌道のうち、最もエネルギーが低い分子軌道をいいます。

*4 1O2の生成・減衰をナノ秒の時間分解能で計測するナノ秒時間分解測定システムにより構成されていま

す。

*5 天然に最も多く存在するアルキル4置換体のフラン脂肪酸の一種です。

研究内容・取材に関する問い合わせ先

杏林大学 保健学部 臨床検査技術学科 

教授 岡田洋二(オカダヨウジ)

電話:0422-47-8000(代表)

E-mail:yokada@ks.kyorin-u.ac.jp

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