大学ホーム国際協力研究科現代を読み解くために国際協力研究科ができること世界が必要とする多様な知識を備えた通訳・翻訳者を養成

世界が必要とする多様な知識を備えた通訳・翻訳者を養成

日中関係の深まりが中国語通訳の需要に

 2009年12月、小沢一郎民主党幹事長率いる大訪中団が話題となりました。国会議員百数十名を含む総勢600名――今後の日中関係の深まりを強く予感させる一大政治イベントであったといえましょう。

 ここでちょっと、単純な計算をしてみます。600名が20〜30名のグループで行動したとして、そこに1人ずつ通訳がついたとすると、少なくとも20数名の通訳が一度に必要だったことになります。彼らは語学だけでなく、日中の政治、経済、さらには文化についても、相当な知識を要求されたはずです。実際には、現地の日本大使館員を総動員してもむろん足りず、結果は中国側の手配に頼ったのでした。

 もちろん、政治の世界であれ、ビジネスの世界であれ、交渉となれば、日本側の意思を正確に伝えることが極めて重要です。したがって日本人の中国語通訳者を、数の上でも質の上でも充実させることが急務であることはいうまでもありません。そのことを改めて気付かせてくれる出来事でもありました。

 また、一昨年秋には観光庁が発足、政府が提唱した「観光立国」に向けて、具体的な施策が進行しつつあります。折しも、富裕層が急増する中国では、海外への個人旅行が解禁されました。観光庁を掌管する前原国土交通大臣は中国との交流実績を多く持っており、これから中国からの旅行客が、大きな市場を形成していくことは確実です。

 現状では、中国からのツアーのほとんどが、家電製品などのショッピングを目的にしたもの。観光を日中の相互理解の促進につなげるためには、両国の文化をよく知り、中国語で適切に日本文化を紹介できる通訳・ガイドの育成が不可欠です。

 ここ「国際言語コミュニケーション専攻」は、大学院としてはわが国初の中国語通訳養成コースです。2009年4月の開設以来、私どもに対する国内外の期待の高さをひしひしと感じています。

 実は、小沢訪中団とほぼ同時期に、私自身も北京に飛び、現地のいくつかの大学や関係機関を訪れていたのです。先方も、日本語通訳者を養成することの重要性を認識しており、そのための大学院の開設を望んでいました。また、現役の若手教員を日本に研修生として派遣し、帰国後にただちにそれぞれの大学や大学院で起用したいとの意向も持っていました。

総合大学ならではの幅広い科目が学べる

 先ほども触れた通り、通訳は、単に語学に堪能なだけでは十分とはいえません。文化・政治・経済・ビジネス、とりわけ日中間では環境問題などに関する知識も備えておく必要があります。

 その点で本専攻が、語学系の大学でなく、総合大学それも医療系を母体とする理系分野の充実した大学に設置されていることは、大きな強みといえるでしょう。

 実際、大学院のカリキュラムを組むにあたっては、外国語学部はもちろん、医学部、保健学部、総合政策学部にも協力を要請。その結果、本専攻の学生のための特別な講座を開設してもらうことができました。そこには、各学部の専門分野の概論的科目をはじめ、学際的な分野、たとえばエネルギー問題、環境保護、文化人類学などに関する科目が含まれています。

 学生たちは、そこで、講義の内容を理解するだけでなく、使用される専門用語を、中国語および英語でも習得することを要求されます。予習・復習は大変なようですが、その苦労は、必ず将来彼らの役に立つことでしょう。

 こうした他分野の科目も、通訳養成に必要であることは、私の訪れた中国の大学にも伝えたところ、カリキュラムを考える上で参考になると、たいへん感謝されました。

 ところで本専攻は、通訳だけでなく、翻訳者の育成も目的としています。

 現在中国では、村上春樹をはじめとする日本の作家の作品が、若者を中心に多くの読者を獲得しています。その翻訳は中国人によるもので、地域ごとに数種類出ていることが多いのですが、レベルは翻訳者の理解度に応じてまちまちで、全体として決して高いとはいえません。日本文学を本当に味わってもらうためには、日本語と日本文化を深く理解している翻訳者を育てることが必要なのです。

 一方、中国現代文学の輸入はまだそれほど盛んではありませんが、映画については、興味深い作品が頻繁に紹介されるようになっています。ここでも、吹き替えもしくは字幕のための翻訳者の需要が高まっているのです。

 これまで日本の外国語教育は、圧倒的に英語中心でした。英語が事実上の世界共通語となっている以上、それは無理もありません。

 しかし中国語は、中国国内だけでも13億人、さらに世界各国で活躍する多くの中国人が母語として話しています。加えて中国経済の影響力拡大に伴い、東南アジアを中心に、中国語教育は非常に盛んになっており、いまや、世界第二のメジャー言語といってもいいでしょう。

 本専攻で学んだ学生が日中の交流に貢献し、さらに世界の舞台で言葉を武器に活躍してくれることを期待しています。

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