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誰もが名探偵になり国際経済を読み解く楽しさを

薄れていく日本の存在感

 鳩山政権は、EUに倣った「東アジア共同体構想」を打ち出しています。その第一歩として経済的な統合を模索しなければなりませんが、そこでまず問題となるのは、統合の形です。物品の取引にかかる関税を撤廃する「FTA(自由貿易協定)」にとどめるか、それともサービスや投資、人の移動などについても自由化する「EPA(経済連携協定)」まで踏み込むか。日本企業にとっては関税以外の障壁のほうがむしろ問題なので、後者を望みます。しかし、中国などは当然これに難色を示すわけです。こうした舞台で、はたして日本は、リーダーシップを発揮して、思う方向に導けるのでしょうか。

 東アジア共同体の範囲としては、ASEAN10カ国と日本・中国・韓国の13カ国か、これにさらにインド、オーストラリア、ニュージーランドを加えた16カ国とするか、2つの案が検討されています。いずれにしても経済統合が実現すれば、アメリカはアジアから締め出される形となります。それを牽制するためにアメリカは、APEC21カ国を中心としたアジア太平洋自由貿易圏構想で対抗。折しも2010年は日本、2011年はアメリカがAPEC議長国となる機会を捉えて、実現を画策しています。

 日本は、GDP世界第2位のまぎれもない経済大国であり、「G8サミット(先進8カ国首脳会議)」の一員です。しかし、2008年の世界金融危機あたりから、従来の「先進国」だけで、世界経済の重要課題を解決することは難しいと考えられるようになりました。そして流れは、新興国を加えた「G20」への移行に向かっています。これは、世界経済における日本の存在感が、8分の1から20分の1に薄れることを意味します。

 それだけに、日本はなんとしても、東アジアで主導権を握りたい。ところがここでは、日米の緊密な関係が一種の壁となります。例えば、「東アジアかアメリカか」といった問題が起こると、日本は板ばさみになりかねない。東アジア共同体をめぐる動きが具体化していく過程で、下手をすると日米関係に大きな亀裂が生じるかもしれません。

 一方、日本は経済的に、対米依存を上回ってアジアへの依存を強めているのに対し、アジア諸国の日本への依存度は、むしろ低くなっています。では、彼らの目はどこに向いているのか。いうまでもなく、中国です。

 中国が、政治・軍事大国から経済大国へと変貌しつつあることは周知のとおり。2010年には、GDPでもわが国を抜くことは確実でしょう。この中国が、まるで磁石のように、アジア諸国からモノ、カネ、そして信頼をも引き寄せているのです。

 したがって、アジアにおいても、日本の存在感はどんどん薄れていく恐れがあります。

国際経済のゆくえを推理する醍醐味

 では、どうしたら日本は存在感を保てるのでしょうか。客観的に見ると、これは残念ながらなかなか難しいといえます。

 中国の急成長の背後には、実は日本企業の中国進出があります。これは、先行き不透明な日本経済と心中するわけにはいかない日本企業の、したたかな生き残り戦略です。国際的に評価された鳩山首相の地球温暖化対策も、日本の多くの企業の経営にはデメリットが予想されるだけに、政治の舵取り次第では、今後も生産拠点の海外流出の傾向は強まるかもしれません。日中の主導権争いの中で、日本企業が日本を見捨てる原因ともなりかねない、この国と企業の利害のギャップをどうするか。これは大きな課題です。

 中国だけではありません。韓国はアメリカ、EUともFTAを結ぶなど、極めて積極的な経済外交を行っています。シンガポールをはじめとするASEAN諸国の成長も目覚しい。うかうかしていれば、日本はこうした国々にも追い抜かれ、文字通りアジアの片隅に追いやられる恐れがあります。

 ここで、意外なところに日本外交のお手本があります。連立政権の中で何かと話題を巻き起こし、議席数はわずかでありながら存在感をアピールしている国民新党です。国の存在感は、経済規模によって獲得されるものではなく、リーダーの考え方、主張のしかた、戦略こそが大きな要因なのだということを、この党が示してくれているのです。ただ心配なのは、外交の場でこうした力を発揮できる政治家が、日本には見当たらないことです。

 ところで、本専攻の中国人留学生は、母国の勢いそのままに、大変強い目的意識と積極性を持っています。彼らの多くは、ここで学んだ国際経済の知識を、将来自分のビジネスに生かそうとしている。日中関係・米中関係や、中国企業のM&A戦略などについての活発な議論がいつも聞こえてきます。そして、それは日本人の学生にも、よい刺激を与えていることでしょう。

 私はよく、国際経済の研究は謎解き、すなわち推理小説を読むようなものだと言っています。過去の出来事についても、その原因は学者・専門家の間で意見が分かれるものが多く、学生にも、新たな意見を主張する余地があります。ましてや、将来の出来事については何が起こるのか神のみぞ知る。だれもが名探偵となって、自分の推理を述べることができるのです。

 こうした研究の醍醐味を学生のみなさんに、ここに来て味わってほしいと思います。

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