病院・診療科について全身麻酔の手術と口腔ケア

 杏林大学医学部付属病院では、全身麻酔を受ける全ての患者さん(緊急を除く) の口腔内をチェックします。全身麻酔では呼吸に必要なチューブを口から気管内 に挿入します。そのため、口腔内の状態が良好であれば、肺炎などの術後合併症 が減少し、術後の回復が促進されるからです。また、これにより早期の退院・社 会復帰が実現すれば、患者さんの安全を損なうことなく医療費を削減することが でき、社会的にも大きな貢献となります。
 まず患者さんには、全身の検査を受けたあとに、周術期管理センターを受診し ていただきます。麻酔科医の診察や看護師の面談などがあり、それぞれの患者さ ん固有の情報をまとめて全身の状態を把握します。その際に、口腔内も検査します。 具体的には、不適合な義歯を装着していないか、抜ける直前のグラグラの歯がな いか、過度に乾燥していないか等を確認します。また、長期にわたりステロイド 薬や抗がん剤を投与されている方は、口腔粘膜炎や乾燥により口腔環境が悪化し、 合併症が引き起こされるリスクも上がるため、患者さんの状態をさらにしっかり と確認します。
 このような患者さんへは、手術直前まで口腔環境を改善させるための清掃方法 や潤いの与え方などを指導します。グラグラの歯が存在していると気管内挿管時 に脱落する危険性があるので、手術前に抜歯を行うこともあります。
 さらに、長時間の手術のあとや術後に絶食期間がある場合は、口腔細菌の量が 増加します。意外に思われるかもしれませんが、口から食物を採らないと口腔内 環境は逆に悪くなります。このような場合も、口腔粘膜を刺激したり、保湿した りして唾液分泌を促して細菌の量を減らします。患者さんが早期に回復するため には、口腔ケアの介入が必要なのです。 全身麻酔下の手術を受けられる方は、 口腔内環境を普段以上に整えることが重要です。

(池田 哲也:杏林大学医学部付属病院 顎口腔外科 講師)
杏林大学新聞 第20号より抜粋