病院・診療科について膵がんと薬物療法

沈黙の臓器「膵臓」のがん

 膵臓(すいぞう)は胃の裏側にある、消化液やインスリンなど糖代謝にかかわるホルモンなどを産生する重要な臓器です。 そこに発生する「がん」が膵がんですが、膵がんに特徴的な症状はなく、また身体の奥にあるため早期診断が非常に難しいため、進行した状態で見つかることが多い疾患です。

 

 

膵がんの早期診断

 

 膵がんを早期に診断するためには、お腹や背中の痛みが続く、尿が褐色になる、あるいは皮膚・白眼が黄色くなる(黄疸)、体重が急に減ってきた、糖尿病が見つかった、などの場合は、膵がんを念頭において専門医がいる病院で検査を受けていただくことが大切です。たとえば、胃が痛くて胃の検査をして異常がない場合でも、膵臓は大丈夫かなと念のため検査していただくのがよいでしょう。  また、喫煙、大量の飲酒、糖尿病や慢性膵炎、膵嚢胞など膵臓の病気、家族歴(近親者に膵がん患者さんがいる)などがリスク因子として挙げられ、複数のリスク因子がある場合は定期的に検査を受けることが勧められています。

 

くすりによる治療

 膵がんも含めて、がん一般に対する治療は、切除手術や放射線療法など一定の部位を集中して治療する方法と「くすり」を使った全身治療に分けられます。 くすりの治療は、従来のいわゆる「抗がん剤」による化学療法から、さまざまな種類の薬剤が使われる「薬物療法」という言い方が一般的になってきています。

 

進化する治療法

 がん細胞の増殖のメカニズムがわかり、そこをブロックすることでがんの進展・増殖をおさえる分子標的治療薬、我々が持っている免疫機能をうまく働かせてがん細胞を攻撃する免疫チェックポイント阻害薬、がんの遺伝子異常をターゲットとするゲノム治療など、がんの薬物療法は大きく変わってきました。また薬物療法と切除手術と組み合わせることで手術成績も格段に改善してきています。
 切除できない状態の進行した膵がんでは、薬物療法が主体となります。1990年代の終わり頃、それまで使われていたフルオロウラシルと新薬ゲムシタビンとの比較試験により、ゲムシタビンの治療を受けた患者さんで痛みなどの症状改善と生存期間の延長が証明されました。日本でも2001年に適応が承認されて、長期にわたり日常診療で使われています。
 さらに、2013年、2014年と相次いでFOLFIRINOX療法(オキサリプラチン、イリノテカン、フルオロウラシル、レボホリナート併用療法)やゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法の新しい治療法が登場し、大きく治療成績が向上しています。また、S-1という飲み薬も切除手術後の薬物療法として広く使われています。 効果の高い治療は概して副作用も強くなります。効果をうまく引き出すには適切な治療の選択と副作用の管理が必要です。これらのくすりをどう使うか、患者さんそれぞれの体調、体力、年齢、意向など総合的に判断して、最適な治療を行うことが大切です。

2020年11月
杏林大学病院 腫瘍内科診療科長、がんセンター長、教授 古瀬 純司