社会で働いた経験をベースに、
視野を広げ、専門性を高めたい

大学院ってどういうところ?
分野も課程も異なる3 人の大学院生に、大学院に進んだ理由、
授業や研究、入学後の時間の使い方など、
さまざまな視点からお話しいただきました。

専門的に学び、幅広い知識を!

大学院に進んだ理由、なぜその分野を選んだのかお聞かせください。

原田 今年の3月まで9年間、看護の現場で働き、4月にCNS(専門看護師)の修士課程に進みました。看護師になったのは、高校時代に『ホスピスで死ぬということ』(山崎章郎著)という本を読み、終末期医療に興味をもったのがきっかけでした。大学の卒論でも、遺族のグリーフケアなど終末期に関するテーマを扱いしました。しかし、現場で働くようになり終末期にあるがん患者さんなどと触れ合ったときに、知識不足を思い知らされたのですね。もっと専門的に学びたい、正しい見識から医師にも意見を言えるようになりたいと思い、がん専門のCNSを目指して大学院進学を決めました。

櫻井 診療放射線技師として働いて10年ほど経った頃、自分の専門分野だけだと考え方が偏ってしまうことが悩みでした。幅広い視野や知識をもちたいと思い、最初は大学院そのものに興味をもったのです。もともと海外の事象に関心があり、大学院について調べているときに国際協力分野に興味をもちました。私に何ができるだろうと思ったのです。杏林大学の国際協力研究科は夜間に開講していて、働きながら学べるので入学を決めました。

遠藤 私は大学を出て研修医として2年間、臨床に携わりました。その頃は臨床医としての技術を身につけることに懸命で、7年ほど実践を重ねて研究の重要性を実感したのです。専門医の資格が取れるレベルまで経験を積んだうえで、次はまったく違う視点で医師としての幅を広げたいと思い、大学院に進みました。

皆さん社会を経験後、大学院に入っています。進学にあたってはどのような準備をしましたか?

原田 CNSコースに入るには5年以上の臨床経験と、専門分野に関連した3年以上の職務経験が必要です。修士課程の後に臨床に出て、そのケースレポートを日本看護協会に提出して認められれば受験資格を得られ、試験に合格してCNSになります。難易度も専門性も高いので、ケアなどに関する講習会に参加し、知識を深めることに努めました。また職場の上司にもCNSを目指すことを話し、がん患者さんの担当にしていただいて実践を積みました。

櫻井 進学を決めてから入学までは1年半ほどあったので、国際協力に関するオープンセミナーに、仕事の帰りに週1回通いました。それと並行して、どういう研究をするのかを考えました。そのときに現在の指導教授である北島勉先生と出会い、ヒントをいただけたのです。診療放射線技師の経験を生かし、乳がんに関する研究をするという方向性を入学前に出すことができました。

遠藤 大学院進学を決めたときには、私はすでに結婚していました。出産・育児のことが念頭にあったので、すぐに主任教授に入学後の方向性を相談しました。出産にあたって半年間は休学し、1年間の育休をとり、その後は実験の時間や内容を調整しながら進めることにしました。その期間を経て、今年度から臨床を離れて研究に専念しています。

興味をもったときが挑戦のチャンス

大学院に入って、生活スタイルも変わったのでは?

遠藤 大きく変わったのは、やはり出産後ですね。実験は基本的には平日の朝9時から夕方5時まで。その時間で可能な実験内容を指導教授とともに考え、調整しています。講義は医学部の大学院の場合、臨床との関係で夜間になります。DVDの貸し出し制度があるので、それを利用しています。自分の時間をコントロールするうえで、DVDは役立っています。

原田 大学院の授業は週に2〜3日です。その分、課題がたくさん出るし、授業はプレゼンテーションが主体ですから、しっかりと準備をしないといけません。気持ちがゆるまないよう生活のメリハリが大切です。私はまとめたり発表したりすることが得意ではないので、そこがちょっと大変ですね。今は基礎を学び直していますが、確認と発見の連続です。

櫻井 国際協力研究科は卒業までに30単位が必要なのですが、私は1年次で22単位を取りました。平日は夕方まで病院で働いた後、1 〜 2コマの授業に出る。夜勤は週末に回していただきました。授業はプレゼンテーションが中心なので、夜勤の休憩時間や週末に準備をしていましたね。2年次は海外調査と論文執筆があるので、仕事量を減らしています。

最後に、それぞれが追求したい研究テーマと、学生へのメッセージをお願いします。

遠藤 腎臓・リウマチ膠原病内科で、血管炎を患った患者さんの好中球(白血球の一種)の性質を研究しています。臨床で血管炎の患者さんを実際に見てきたので、研究には結びつきやすいですね。ただ、好中球を1つ使った実験をするにも、最終データが出るまでにはいくつものプロセスを経ます。1つを間違えただけでも正しいデータが出てこないので、すべてのプロセスに誠実に向き合うことの大切さを学びました。 女性が研究の道に進む場合、結婚・出産・育児を意識しますが、子どもを育てたいから大学院進学を止めるとしたら、チャンスがまったくなくなってしまいます。まずは自分の興味を大切にしていただきたいと思います。

原田 まだ明確な研究テーマは決めていませんが、入学前から在宅医療に関心がありました。家に帰るなら「今」しかないと思える患者さんが病院で亡くなる姿をたくさん見てきたからです。海外では在宅死が増えているのに、日本では病院死が増え、在宅死が減っています。なぜそうなのかと疑問だったので、在宅医療に関連した研究に関心があります。
 CNSには、6つの役割があります。「実践」「相談」「調整」「倫理調整」「教育」「研究」─人間力と専門力が求められるということです。CNSは、日本ではまだ不足しており、これからの職種なので、ぜひ挑戦していただきたいと思います。

櫻井 私の研究テーマは「乳がん治療に関する費用分析」で、医療経済の分野です。乳がん治療の各ステージの医療費と生存率を推計することで、乳がんの発見時期による医療費の変化や死亡の回避について検討したいと考えています。その調査を7月から2カ月間、タイのコンケン病院で行いました。経済発展を遂げたタイでは、国民皆保険の制度が15年前から施行されています。医療システムや保険は制度化されているのですが、がん検診は行われていないのですね。日本とは異なる状況でどういう結果が出るのか、楽しみです。
 海外調査では、日本人は自分だけで、言語や文化の違いで孤独を感じることもありました。でも、今やっていることは自分が決めたことであり、大変なのは当たり前。やらないで後悔するよりはやったほうがいいので、大学院に興味があればぜひ進んでほしいですね。

座談会を終えて。
大学院とはどういうところなのか、漠然としていましたが、実際に今学んでいらっしゃる方々のお話を伺い、「大学院で学ぶ」、「研究をする」というイメージを持てることができました。貴重なお話をありがとうございました。

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