全身管理のエキスパートとして臨床、教育、研究に力注ぐ

杏林大学病院の麻酔科業務

麻酔科は全身管理のエキスパートとして、手術の際には呼吸や循環のコントロールを中心とした麻酔管理を行っていますが、集中治療室やペインクリニック、緩和医療など手術室外でも広く活動しています。

当院の手術件数は年々増加しており、毎年12,000件を超える手術が行われています。麻酔科はそのうち約7,000 件の手術の麻酔管理を行っており、高度な医療を支える重要な役割を果たしています。2022年7月には中央手術室に新たな手術室が3室増設され(下写真)、さらなる手術件数の増加が見込まれています。

 

 

 

当院の麻酔科の特徴は、患者さんの手術をより安全に行うために、術前・術中・術後を通して一貫した多職種チーム医療を行う「周術期管理」体制を整えていることです。2017年に周術期管理センターを設置し、すべての予定手術患者に対し、麻酔科医、看護師、口腔外科医、歯科衛生士、薬剤師など多職種が連携して術前の全身評価を行っています。手術前日に担当麻酔科医が患者さんのベッドサイドを訪問して診察を行う病院が多いなか、このようなセンターを設置して全ての手術患者さんの診察を高い次元で行っている施設は全国でもまだ少なく、杏林大学が誇ることができるシステムのひとつです。

 

杏林大学にはハイリスク手術患者や重症内科系患者の集中治療を行うCICU(Central ICU)が18床、外科系患者の術後管理を行うSICU(Surgical ICU)が14床ありますが、いずれも集中治療専門医の資格を有する麻酔科医が常駐して術後管理や集中治療管理を行っています。

 

また、2018年に結成された術後疼痛管理チーム(KAPS: Kyorin acute pain service)は麻酔科医、看護師、薬剤師がチームとして1日に2回術後患者さんの回診を行い、手術患者さんの疼痛管理を行なっています。KAPSでは術後の痛みを軽減することで、QOLの改善や早期離床・術後回復を促進させ、痛みが原因で起こる合併症を軽減させることを目標としています。また、疼痛管理以外にも神経合併症や鎮痛薬による術後副作用についても対応を行っています。

 

この他、麻酔科医は緩和ケアチームの要としても活動しており、他の診療科の依頼に応じて担当診療科と併診を行っています。緩和ケアにより疼痛を始めとする諸症状の速やかな軽減が得られ、早期退院、転院、安らかな看取りに結びついています。

 

 

仲が良く雰囲気がよいアットホームな麻酔科医局

現在、大学に勤務する医局員は萬知子主任教授を中心に34 名います。麻酔専門医は18名、指導医は10名います。学会でも指導的立場に立つ医師が多く、質の高い指導を受けることができます。助教(任期制)以上のスタッフは20名、専攻医11名、女医復職支援医員2名、専修医1名が在籍しています。出身大学は母校である杏林大学だけでなく、全国の様々な大学出身者がいます。近年では他大学や他病院で初期研修を行ってきた新入局員も増えてきていますが、すぐに溶け込み、皆仲良く温かい雰囲気で日々の業務を行っています。

 

 

当教室は麻酔科専門研修プログラムの基幹病院であり、大学病院に求められる臨床、教育、研究の3本柱をバランス良く学ぶことができます。どの医局員も教えることがとても好きで、学年に関係なく質問しやすい関係性が保たれています。日々の臨床の中で得られるクリニカルクエスチョンを大切に、研究活動も積極的に行っています。

我々麻酔科の日々の生活は、定期的にこのホームページやSNSで発信していますので、ぜひご覧ください。

 

 

熱意を持った医学部臨床実習と研修医教育

当教室では医学生の臨床実習にも力を入れています。麻酔科は気管挿管や中心静脈穿刺など侵襲を伴う手技を行う診療科です。また、オピオイドや静脈麻酔薬などの劇薬から循環作動薬にいたるまで、様々な薬剤を扱う現場でもあります。充実した臨床実習となるように、シミュレーショントレーニングを活用した実習を取り入れています。当教室は高機能患者シミュレーターを有しており、全身麻酔導入の流れをシナリオに沿って体験してもらいます。手術室と同じ麻酔器、生体モニターを用意し、各医学生が研修医役、指導医役となり全身麻酔導入シミュレーションを行います。

 

高機能患者シミュレーターは意識や呼吸、循環変動だけでなく麻酔薬に対する薬理学的変化もリアルに再現されるため、医学生は臨場感を持って実習を行うことができます。また、侵襲的手技である中心静脈穿刺、気管挿管も高性能マネキンを用いて、医学生が積極的に参加できるような体験型臨床実習を行っており、学生からは高い評価をもらっています。

 

  

 

当院の初期臨床研修では、麻酔科は必修科目であり、2ヶ月間を通して麻酔だけでなく医師として必要な全身管理の知識と技術を学びます。研修医と指導医とのマンツーマン体制で、ポートフォリオやSEA(significant event analysis)などの振り返りを用いて系統的な教育を行っています。また、麻酔科研修では感染防御や薬剤管理、医療安全に関する知識も日々の研修を通して学ぶことができます。2021年より全ての初期研修医を対象として、毎月気道確保や血管穿刺など、初期臨床研修に必要なテーマに沿ったハンズオンセミナーを開催していて、今後もさらに力を入れてく予定です。