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在学生の活動

カンボジア海外研修報告

国際医療協力専攻 山下 順

今回私は、FASID(財団法人国際開発高等教育機構)の主宰する海外研修に参加し、カンボジアへ行ってきま した。約1週間の短い日程ではありましたが、様々な機関の方々からお話を伺い、実際のフィールドを訪問し、現地の人々の生活をこの目で見ることで、カンボ ジアという国への理解を深めることが出来ました。

今回の訪問まで私はカンボジアについてあまり良い印象は持っていませんでした。クメール・ルージュによる知識 層の虐殺で、今も技術や伝統を伝える人材がおらず、政府のシステムはほとんど機能していない、そして世界でも最貧国のレベルにあり「アジアの中のアフリ カ」という有難くないニックネームを持つ国だ、と聞いていました。

最初に飛行機からカンボジアの風景を見た時はやはり同じ印象でした。舗装された道はほとんどなく、あたり一面 が泥に覆われ、川沿いでは洪水の影響で多くの家屋が水没しており、想像通りの悲惨な国なのだと思いました。しかし、その思い込みが間違いだと気付くのにそ う時間はかかりませんでした。首都プノンペンでは物資が溢れ、美しい町並みの中で多くの車やバイクが行きかっており、それは典型的なアジアの都市の風景で した。カンボジアの人々の活き活きとした目を見たとき、そこには希望の光を見い出すことができました。農村を訪問した際も、日本人が失いつつある家族や共 同体の強い繋がりを感じ、時間を忘れさせるような平和でのどかな田園風景からは、とても十数年前まで内戦をしていた国だとは思えませんでした。カンボジア の人々からは、アジア人共通とも言える、微笑みの奥に秘めた気骨のようなものを感じ、国全体が過去の悲劇を克服し、着実に未来へと歩んでいるように感じま した。

自身の滞在を通して、常に考えさせられたのは、カンボジアを通して見える日本、そして先進国が途上国に援助を 行うということの根本的な意味でした。前者は、日本の戦後の復興の姿とカンボジアを重ね合わせ、カンボジアが今度どのような発展を遂げていくのか?その過 程でやはり失われていく価値観もあるのだろうか?ということでした。後者は、今の援助形態は、先進国の発展で得た経験を元に、先進国の現状を基準にして、 そこに近付けようと試みているが、その考えは根本的に間違っているのではないか?ということでした。

特に長い歴史を持つアジア各国には、独自の文化や価値観に沿った、独自の発展方法があり、その独自性を尊重 し、ゆっくりと確実に発展していくべきだと思います。日本のように、大量に外部から物資、制度、価値観を輸入し、急速に発展して行くやり方では、いつかど こかに欠陥が表出してくると思えるからです。

その為には、援助・開発はまず相手の文化に敬意を払い、共に成長して行こうという姿勢が大切で、物よりも人の 交流が不可欠だと感じました。その意味で、今回の研修で最も印象に残ったのは、JICAや国連機関でも、NGOの活動でもなく、個人で活動をされている2 人の日本人、倉田氏と森本氏でした。

倉田浩伸氏は、1994年よりカンボジアに土地を借り、有機無農薬の胡椒農園を経営し、”Kurata Pepper”のブランドで収穫した胡椒の販売を行っています。元々内戦前まで、カンボジア・コショウは世界で最も香り高く豊富な生産量を誇っていたそう です。その伝統ある生産物を再び世界に認めてもらう為、試行錯誤を繰り返し、高品質な胡椒の復活に成功しました。現地の雇用促進にも貢献されています。


Kurata Pepper入口


代表 倉田浩伸氏


胡椒の選別作業


胡椒の乾燥

森本喜久男氏は、京都の友禅の染め織り職人であったが、カンボジアの布の生命力に魅せられ、これまでの職人経 験を活かし、1996年に「クメール伝統織物研究所」を設立しました。内戦で途絶えかけていた伝統絹織物を復興させる為、設立にあたり、村々をまわり、埋 もれていた高齢の織り手を探し出し、村に家族ごと移住させ、伝統の継承を行っています。いまは約400名の従業員を抱え、桑を植え、蚕を育て、染料になる 虫や樹木を取る当時の生活を再現する『伝統の森計画』を始めています。


クメール伝統織物研究所 代表 森本喜久男氏


高齢の職人から伝統が継承される


ここでは子供も働いている


国王に作品を献上したこともある

この2名に共通することは、現地の人々に溶け込み、共に生活しながら伝統文化の復興に尽力されていることです。共に10年20年といった長期的視野で活動しており、実際に人生の大半を注いできた強い情熱が彼らの言葉から感じられました。

彼ら2人の発する言葉は、本物の生きた言葉で、私の胸に強烈に突き刺さり今も残っています。倉田氏は「簡単に 築いた物は簡単に壊れる。しかししっかりと築いた人間関係は簡単には壊れない。」とおっしゃいました。その言葉を現在の開発プロジェクトに当てはめてみる と、やはり本当の人間の絆は築かれていないように感じます。2〜3年のプロジェクトで成果を出し、効果・有効性等の評価基準で数値的判断を下すのは、非常 にビジネス的で現実的手段ではあるが、人よりも物やお金が中心になっている気がします。お金が中心の場合、そこにはどうしても従属関係が生まれ、本物の信 頼関係が生まれにくいのではないでしょうか。

森本氏は、「伝統は創るもの、守るものじゃない。」と強く言っていました。翻って日本を見てみると、古い慣習 を守ることばかりに捉われて時代に取り残されている伝統が多く見受けられます。本来、時代と共に成長して行くべき伝統や価値観が、急激な社会の発展の中で無視され、国民が連綿と紡いでいくべき連続性が欠如してしまったのではないかと考えさせられました。また、森本氏も倉田氏と同様に「開発とは人であり、人 なくして開発はありえない。」とおっしゃっていました。

カンボジアでは多くの子供が働いています。街中で物売りをしている子供の姿を見たとき、彼らの将来のことを考 えると辛い気持ちになりました。しかし、農村で自然と共に暮らし、家畜の世話や農作業を手伝っている子供達にはそのようには感じませんでした。それが何故 か、森本氏の言葉からヒントが与えられました。伝統織物研究所で働いている女の子の傍らで彼は「伝統工芸は10年で一人前になる世界、小さい頃からやるこ とで手に職が付き、プロフェッショナルとなることが出来る。結果、この子は将来、職に困ることはない」と言いました。その時私は、「子供が学ぶ」のは生き る術を身に付ける為であり、学校に行くのはその手段の一つでしかないのだと気付きました。そして、全ての事を一つの価値基準で考えることは非常に危険だと も思いました。学校に行って、よい大学に入って会社組織の中で働いていくことが彼らの考える幸福の姿とは限らないし、経済発展の後でしか成立しない幸福な らば、それは見せかけの幸福でしかないでしょう。

特に強烈に印象に残った2人をここでは取り上げましたが、他にもJICAや国連機関、NGOの多くの方々と出 会い、その素晴らしい活動に感銘を受けました。むしろ批判にさらされやすいこれらの機関が行ってきた努力の方が尋常なものではないと思います。どんな活動 にも良い部分と悪い部分はあり、個人の活動も彼らのカリスマ性があってこそで、発展性に乏しいことも事実であり、その両面を見極めていかなければならない と思います。

今回の研修では本当に様々なことを考えさせられました。一週間でこれだけの経験はなかなか得られないと思います。今後の自身の進む道を考える上でも非常に有用なものとなりました。


プノンペン市内の日常


農村の田園風景


トゥール・スレン博物館


障害者職業訓練所


障害者職業訓練所で。後列右から2人目が筆者


アンコールワット参道の修復事業


小学校での図書館事業

FASID海外研修(カンボジア)日程表

9/23(日) Kurata Pepper トゥール・スレン博物館、プノンペン市内
9/24(月) JICAカンボジア講義「カンボジアへの各国の協力と援助強調」 JICAプロジェクトサイト訪問(タケオ県の農村開発『小規模農民生活向上プロジェクト フェーズU』)
9/25(火) カンボジア政府開発評議会 講義「カンボジア国の発展と援助」 国連機関日本人職員座談会(WFP、UNICEF) NGO Association for Aid and Relief『障害者のための職業訓練』サイト訪問
9/26(水) Plan International Cambodia講義、出生登録プロジェクトサイト訪問
9/27(木) 国際子供権利センター 講義 空路にてシェムリアップへ移動
9/26(金) クメール伝統織物研究所 アンコールワット遺跡修復(上智大学)サイト訪問
9/27(土)

シャンティ国際ボランティア会(SVA)図書館事業活動について講義 小学校訪問、交流活動

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