講師
田中 洋
(TANAKA, Hiroshi)

経歴
2005年 東京外国語大学外国語学部ドイツ語学科 卒業
2008年 東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻 博士前期課程 修了
2014年 東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻 博士後期課程 単位取得満期退学
2020年~ 杏林大学外国語学部(専任講師)

先生の専門は何ですか?

近現代ドイツとスイスの詩人であり作家、ヘルマン・ヘッセの研究をしています。作品分析に並び、日本の読者や研究者にどのように受け入れられてきたか、また評価されてきたのか――日本における「受容史」というテーマでも取り組んでいます。そして、ドイツ語や英語といった外国語を学ぶ魅力を伝えること、その伝え方/教え方を研究する外国語教育もまた、私の専門です。

なぜ、その専門に興味を持ったのですか?

子供の頃、少しの間ドイツのダルムシュタットという街で過ごしました。当時は現地校に通っていた(放り込まれた)のですが、少しだけ馴染みのあった英語とはまた異なった音や、言葉を発する時の息づかいに少なからず魅了されました。何も分からない中、手探りで言葉を覚えていき、相手に気持ちを幾ばくかでも伝えられた時、自分でもよく理解できていない言葉で話していながらも意思疎通できたことに驚き、言葉ってなんだかすごいと身震いしたのです。

当時、海外に住む子供向けの通信講座で学ぶ中、国語教材でヘッセの『車輪の下』に出会いました。物悲しいけれども妙に腑に落ちた結末が強い印象を残しました。大学に入ってヘッセを再読し、元来さほど本は読まない学生だったのですが再び強く惹かれ、もっとこの作家のことを知りたいと思い、現在の専門へと至っています。ドイツ・ロマン派、表現主義、ユングの元型理論、仏教、道教、グノーシス――ヘッセ(作品)の解釈にまつわる鍵語は様々で、ややするとそうした(時として胡散臭いとも揶揄される)切り口の豊さにばかり目を向けられがちなのですが、これらを道標に作品やその周辺への理解を深めていくことで、ヘッセという人間が何を感じて生きたのか、そしてどういった極致へ至ったのかを知りたくて、ずっと追いかけているのだと思います。

先生の専門分野の「こんなところが面白い」を教えてください。

ヘッセの受容史研究に関して――この極東の地で局地的に永く読み継がれてきたヘッセは、時代によって受け止められ方が異なります。その歴史を見つめていくと、ヘッセを通じて今に至るまでの日本社会のありかたが浮き彫りにもなってきます。また、いわゆる難解さとは離れたところに佇むヘッセですが、作品の素朴な美しさだけでなく、悩み苦しむ人間の普遍的なありようが真摯に描かれているゆえに、いつの時代でも読まれてきたのでしょう。どういった研究テーマであれ、最後は自分の生きる現実の社会との関わり方を考えていくことに結びつくのだと思います。私の場合は、それがヘッセでした。

大学で専門的に学ぶことでどんな未来が?

早く社会に出て一人前として働き、それに見合う報酬を受け取る、というのは一つの選択肢です。一方で、大学で学ぶことを選んだみなさんは、それではなぜこの道を選んだのでしょうか。理由は様々であれ、知的な「戯れ」に挑むことが兎にも角にも許された――これはとても貴重で贅沢なことなのです。この「戯れ」をとことん突き詰めて得た経験を、長い人生において真理の一片に近づいていくための一助としてください。

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