公開講演会・公開講座
講演概要:糖尿病性足病変について 足を失わないために
杏林大学医学部 准教授(形成外科学)
大浦 紀彦
(難治性潰瘍、褥瘡、熱傷、創傷治癒、微小循環)
○講演概要
1.糖尿病とはどんな病気か
血糖値が高くなる病気のことです。血糖が高くなることだけでなく全身性に多くの症状が出現してきます。
2.糖尿病の3大合併症とは
糖尿病には、腎臓、神経、目が悪くなる3つの有名な合併症があります。
血管も障害されます。血管の内側の膜の下に、カルシウムが溜まり、血管が細くなったり、血管が詰まったりします。
3.糖尿病と足病変関係がなさそうだけど、どうして足を切断することが起こるのですか
血管が障害されることが進行すると、臓器の虚血(臓器に血液が通わなくなる)状態がおこります。足が虚血になると、足が冷たくなり、進行すれば足先から壊死(黒くミイラ化していく状態)になります。
また、血管が悪くなくても、神経が障害されることによって足の変形が起こり、その結果、足の裏や趾先に胼胝(たこ)を形成し易くなります。そのまま放置していると、胼胝(たこ)の下にキズができて、やがて潰瘍となります。キズからばい菌が入ると感染となり、足に膿が溜まります。さらにひどくなると、救命のために足を切断することもあります。
4.血糖コントロールの手段は、何ですか
食事療法、運動療法、薬物療法の三つが柱となります。
総カロリー量を計算して、食事をとるようにします。
運動は、何日か行うものではなく、毎日継続できるものがふさわしい。
しかし、足を失うと運動療法が困難になります。
歩くことができないと糖尿病も悪くなりやすいのです。
5.重症下肢虚血とはどんな病気ですか
糖尿病の足の病態には、2つあります。
ひとつは、虚血(足に血液が供給されない)状態、もう一つは、感染(細菌が足のキズから中に入る)状態です。重症下肢虚血は、足の血管(動脈)が細くなるか、詰まって血液が足先まで行かなくなります。その結果、足が冷たく、強い痛み(安静時疼痛;触らなくても痛い)や足趾の壊疽(足の趾が黒くミイラ化する)が起こってきます。早期に発見して、血管を広げる治療を行えば、足を助けることができます。キズは血管を拡張して、血流をよくしなければ治ってきません。血管の治療を優先させます。
6.どうやって重症下肢虚血を発見するの?
ABIという検査が一般的です。足首と上腕の血圧の比のことです。通常は、足の血圧と腕の血圧は同じくらいの値ですが、足の血流が悪くなると、足の血圧が低下します。
ABIが1よりも低い値になります。
足趾の色が変化し、黒いかさぶたのような壊死を認めたら、専門医に相談しましょう。
7.自分で行うフットケアとはどんなこと?
足の変形を認めたり、胼胝がある場合、キズが出来やすい状態にあります。その状態からキズができないように予防する。どのように生活をしたら足を守ることができるのか患者さんといっしょに考える。自分でも足の状態がわかるようになる。
足に興味を持ち、手入れができる。それがとても重要なことです。
8.足のどんなところを注意すればいいの?
・足の変形(形が正常の形ではなくなる)指、足の裏に突出がある。
形がへん。特に足首の形や踵の形がへん。
・足が冷たくて紫色である。冷たいだけであれば、健常な人でも起こる。
足の色が紫色でまだら、大理石のような紫色である。
・足の裏の感覚が鈍くなる。爪楊枝の先端で押しても痛くない。
・亀裂(ひび)を認める。足の裏ががさがさしている。
9.日常生活で注意するべきことは?
1)裸足で生活しない
足変形がある場合普通の靴では胼胝、たこができて、やがてその下に潰瘍(キズ)ができてきます。
自分の足の形にぴったりあった靴を作ることが大切です。
家の中でけがをすることが多いので、家の中でも靴を履き、裸足で生活することは避ける必要があります。
2)どんな靴下がいいのでしょうか
白い靴下、それも足はぴったりフィットしていて、ゴムの入っていないもの
黒い靴下は、けがをした時に血がついていることが分かり難い。
3)正しい靴の履き方 ひもがある靴を、ゆるゆるにして履くと、靴の中で足がずれて、靴擦れを起こします。きちんとひもを結ぶことが大切です。靴擦れから足が壊死に進行することがあります。
靴擦れも油断できません。
4)どんな靴がいいのですか
足底が柔らかいサンダルを素足で履くことも、キズを作ることがあるため、推奨されません。靴底が柔らかいものよりも硬いものの方が趾先に負担がかからず、キズも作りにくい。
足の大きさにぴったりあっていて、ひもでしっかりと足を保持できる靴を選びましょう。
5)亀裂(ひび割れ)の処置はどうすればいいですか
糖尿病による神経障害が進むと交感神経の働きが弱くなって汗をかかなくなります。その結果、足の裏の角質が硬くなり、がさがさになります。毎日のスキンケアが大切です。保湿クリームや保湿用のオイル(リノベラ)が推奨されています。保湿剤をがさがさした部位に塗り、その上にサランラップを巻いて30分待ちます。保湿剤が角質の中に浸透ししっとりしてきます。一回で良くなるわけではなく、一月くらいは継続することが大切です。
足の白癬(水虫)が潜んでいることもあります。専門医に相談をしましょう。
6)やけどには注意しましょう
冷たい足を温めるために、あんか、ゆたんぽ、ストーブを使用し、やけどをすることがあります。
神経障害が進行した患者さんは、熱い、痛いという感覚がなくなります。
普通は「熱い!」と感じて、足を引っ込めますが、糖尿病の患者さんは、足がやけどしている状態でもそのまま放置したり、眠ってしまったりします。
その結果、通常よりもひどいやけどとなって、足の指の切断をすることがあります。
7)爪についても注意しましょう
陥入爪(まきづめ)から感染が悪化し、足の壊疽となることもあります。専門医にご相談ください。
足を守るためのポイント
1.自分の足に興味を持つ。
2.自分の足を清潔に保つ。お風呂で洗ってあげる。よく観察する。
3.自分の足にとって、危険なことを知る。
4.自分の足の変化に気づく。
2012年6月8日 杏林大学公開講演会
『糖尿病性足病変について 足を失わないために』
杏林大学 広報・企画調査室