1. 杏林大学トップ
  2. 研究・社会活動
  3. 講演会・イベント案内
  4. 公開講演会・公開講座
  5. がんの話 〜がん薬物療法の進歩〜

公開講演会・公開講座

がんの話 〜がん薬物療法の進歩〜


杏林大学医学部内科学腫瘍内科教授、杏林大学病院がんセンター長
古瀬 純司
(消化器腫瘍内科学:特に肝・胆道・膵癌、癌化学療法)




    ○講演概要

    わが国は男女とも世界で最も平均寿命の長い国のひとつです。しかし、1981年より悪性新生物、いわゆる「がん」がわが国の死亡原因の第1位となり、がんによる死亡率はいまだ右肩上がりで増えています。現在、約70万人弱の方が毎年新たに「がん」と診断され、3人に1人が「がん」で亡くなっています。日本人の2人に1人ががんになるといわれています。「がん」は確かに命に係わる怖い病気ではありますが、我々にとって身近な病気です。もちろん早期に発見して完全に治癒することもありますが、進行した状態で見つかったり、再発したり、治ることが難しい場合も少なくありません。健康な時から、「がん」になったらどうするか、どう付き合うか、よく知り、考えることも大切です。今日は、がん治療全体をご説明し、中でもがん薬物療法について概略と最近の進歩について、また杏林大学病院のがん治療への取り組みについてお話しいたします。

    切除手術、放射線治療、薬物療法ががん治療の3本柱です。手術と放射線療法はメスを入れたところ、放射線をかけたところのみに効果がでる「局所治療」に分類されます。薬物療法は、化学療法とも呼ばれ、抗がん剤を点滴や内服で用いる治療であり、身体全体を対象に治療を行う「全身治療」です。手術、放射線療法は基本的に転移のない比較的早期の段階で行われます。一方、薬物療法は切除ができない進行した状態や再発した状態で用いられます。また、手術後の補助療法や放射線療法との併用でも使われます。一般に免疫療法への期待が大きいようですが、これまでのところ、効果が証明された免疫療法はほとんどなく、保険適用が承認されたものはありません。まだ、実験的、研究的な段階であり、臨床試験として慎重に実施すべき治療です。

    抗がん剤の開発には10-15年という長い時間がかかります。基礎実験、動物実験、ヒトでの臨床試験を経て、承認審査の結果、保険適用が認められ、広く用いられるようになります。特にヒトでの臨床試験は重要であり、実際に薬として世の中に出てくる薬は20に一つと言われています。つまり、新しい薬が必ずしもよい薬とは限りません。現時点で最も効果が認められ、安全性も十分検討されている標準治療薬を使うことを第一に考えて治療を進める必要があります。しかし、標準治療薬も十分な治療効果が期待できないこともありますし、適当な治療薬がない場合もあります。そのような時は、臨床試験での治療を慎重に検討し、お勧めしています。 薬物療法は病変の縮小、症状緩和、延命などの効果が期待できる反面、副作用、費用、時間的な負担などの不利益も少なくありません。利益と不利益をよく考慮して、行うかどうか十分検討することが大切です。

    がん薬物療法の最近の進歩として、分子標的薬の開発があります。最近、がん細胞の増殖のメカニズムが解明され、より効果的にがんの増殖を抑える薬、いわゆる「分子標的薬」が数多く開発されてきています。分子標的薬とはがん増殖に係わるある特定のポイントを阻害し、進行を抑える薬です。従来の抗がん剤が細胞のDNAに直接作用し、細胞毒性を発揮するのに対し、分子標的薬は細胞増殖を抑えたり、がんに栄養を送る微細な血管を作るのを抑制することでがんの増殖を抑える働きがあります。一部のがんでは、がん細胞の増殖に大きくかかわる遺伝子がわかり、そこを抑えることにより、劇的な効果が発揮されることが分かってきました。あらかじめ、個々の患者さんのがん病巣の遺伝子発現や変異などの特徴を調べて、それに応じた薬剤選択を行う、いわゆる「個別化治療」、「テーラーメイド治療」の時代になってきています。

    分子標的薬の開発により、これまでにない良好な治療効果が得られてきています。一方では、従来になかった副作用もわかってきました。手足皮膚反応、ニキビ様の皮疹、爪周囲炎、間質性肺炎、高血圧、動静脈血栓、などしっかり管理する必要のある副作用も少なくありません。治療の前にどんな副作用があるか、副作用が出たらどうするかなど、十分理解し、適切に対応する必要があります。我々も、医師だけでなく、看護師、薬剤師がチームを作って、患者さんが安心して治療を続けられるよう、取り組んでいます。

    分子標的薬は開発の費用も高く、一般に高額な医療費となってきています。高額療養費の軽減制度がありますので、病院の窓口、健康保険組合の連絡先などに早めに相談していただくことが大切です。 2007年4月、がん対策基本法が施行され、国を挙げて、がんに取り組む体制を整えてきています。がん対策基本法の基本理念には、「がん患者さんがその居住する地域にかかわらず等しく科学的知見に基づく適切ながんに係る医療を受けることができるようにする」、「がん患者さんの置かれている状況に応じ、本人の意向を十分尊重してがんの治療方法等が選択されるようがん医療を提供する」、ことが謳われています。がん対策基本法に基づいて、全国にがん診療連携拠点病院が設置され、杏林大学病院も北多摩南部地域のがん診療連携拠点病院に指定されています。

    杏林大学病院は、2008年4月から「がんセンター」を開設しました。がんセンターは、がん相談支援室、外来化学療法室、化学療法病棟、緩和ケアチーム、化学療法のレジメン評価委員会、がん登録、キャンサーボードからなる組織です。がんを扱う診療科、薬剤部、看護部、地域連携室、庶務課が月1度集まって、運営委員会を開催して、がんセンターの運営について相談しています。

    注)レジメン:どの薬をどのように使うかの取決め

      キャンサーボード:一つの診療科では診断や治療が難しい場合に、複数の診療科の医師が集まり、個々の患者さんの治療方針を検討するカンファレンス

    がんの治療は手術という短期のこともあれば、薬物療法のように長期にわたるものもあります。病気を抱えたまま、治療を継続してかなければならない場合が少なくありません。薬がよく効いて、症状も軽くなることもあれば、効果が出ず、別の治療を考えなければならないこともあります。うまく病気と付き合う、病気に振り回されない、それが「がんに負けない」ことかもしれません。世の中の様々なメディアにがんの情報が溢れています。いい情報もあれば、悪い情報もありまます。がんについての相談やいろいろな情報がほしい時は、杏林大学病院がんセンターのがん相談支援室や「がんと共にすこやかに生きる」のプログラムを是非ご活用ください。


    2012年9月1日 杏林大学公開講演会
    『がんの話 〜がん薬物療法の進歩〜』


    杏林大学 広報・企画調査室




杏林大学について

入試ガイド

就職・キャリア

留学・国際交流

キャンパスライフ・施設

キャンパス案内

各センター・施設

研究・社会活動

PAGE TOP