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杏林見聞録[5] 石巻・川の上プロジェクト (杏林大学新聞14号より)

第5回は、東日本大震災の被災地石巻市を故郷に持つ総合政策学部の三浦秀之講師です。山や田畑に囲まれた地元川の上地区は、被害の大きかった沿岸地区の住民たちの防災集団移転地となりました。同じ県内でも生活習慣や文化が異なる住民同士が、いかにして共に調和したコミュニティを構築するか、もともとまちづくりや地域の活性化に関心があった三浦講師が活動する、まちづくりプロジェクト「石巻・川の上プロジェクト」について伺いました。

専門家集団によるプロジェクトメンバーを結成
 震災後、甚大な被害を受けた石巻市大川・雄勝・北上の沿岸部3 地区の住民は、私の故郷である内陸部の川の上地区に建てられた仮設住宅に移り住み、3 年後には同地区の防災集団移転地に移ります。
もともと400 世帯いた川の上地区は、3年後には800 世帯が暮らす地域になります。とはいえ、「陸の民」と移り住んだ「海の民」では互いの文化や生活習慣も大きく異なります。何より被災の度合いが大きく違います。知らない者同士がコミュニティをつくるためには何かが必要でした。
 新旧住民の代表者を軸に、県内外から私の仲間の建築家、デザイナー、ライターなど様々な分野の専門家が集まり運営委員会を構成しました。まちづくりに重要な要素として「ヨソモノ」「ワカモノ」「バカモノ」とよく言われますが、まさしくそれを体現したプロジェクトメンバーでした。私は運営委員長として、地域住民と専門家をつなげたり、地元の人たちの声を聞いたり、復興庁や市役所との調整役を引き受けました。

ヒアリングでわかった大事な課題
 仮設住宅は居心地が悪い、震災前からまちに愛着と自信がない、おしゃれな場所がない…住民からは様々な声が寄せられました。そこで、家でも仕事場でもない居場所、教育、まちへの愛着の3 本柱をコンセプトにコミュニティの拠点となるような“ サードプレイス” をつくろう、と考えたのです。

 ユニークなのは全て自分たちの手で作りあげたことです。助成金に頼らず、住民たちで資金を出し合い、かつて農協の倉庫だった築80 年の建物を改築しました。地元の大工の指導のもと漆喰やペンキを塗ったり、壁板の杉材を焼くなど、住民やボランティアの共同作業で、今年4 月にコミュニティの拠点となる「百俵館」が誕生しました。
 図書館や中高生の学習スペース、昔から土地に根付く隣家に上がり込んでお茶を飲む「お茶っこ文化」の発展形であるカフェやイベントスペースの機能を持つ施設です。百俵館の名前は、「米俵百俵の精神」に由来します。「百俵の米も、食えばたちまちなくなるが、教育にあてれば明日の一万、百万俵となる」皆の気持ちと期待が込められた場所なのです。

若い人の力は無限
 百俵館では、地元の中高生を対象に英語と数学を教える寺子屋を行っています。現在30 名の中高生が通っていますが、彼らと地域の課題を解決していきたいと思っています。
 住んでいるからこそ分かる問題、出来ることがある。若者が少ないこの地域では、彼らへの期待が大きい。彼らもまた、地域をつくっていくのは自分たちだという自覚が生まれるだろう。
 それには何より教育です。課題解決能力、付加価値を生み出すクリエイティブな力の根本は教育にあると思っています。まさに米百俵の精神です。

私が考える百俵館と地域のミライ
 百俵館は、地元の人たちが互いを支え合う拠点になってほしいと思っています。
 もちろん僕らの中で、震災は悲しいことで忘れられないこと。でも今は、「地域を継承する」ことを一番に考えています。
 震災という同じ体験を経て、生きることに真剣に向き合って考えた結果、地域は固く結ばれるようになりました。
 地元を離れた人が「フェイスブックで見た」と立ち寄ってくれる、「東京よりいいじゃん」そんな言葉は僕たちを勇気づけ、地域の可能性を感じる瞬間です。
 いま、私は地域の人的リソースを調査しています。自分たちが持つ資源、潜在的な能力を発揮できれば、よりよい地域ができると思っています。
 住民がまちに愛着や自信を持てる、自立した魅力的な地域をつくるためにはどうすべきか、こうした問題意識を今後も追求したいと思っています。

復興支援活動が学生の意識を変える
 昨年から、本学の学生を募り復興支援ボランティアをしています。東日本大震災において最も被災した地域でもある石巻を訪れ、五感で感じながら地元の人の話を聞きます。学生たちは、問題意識に目覚め、主体的に動くことが必要と気づくようになり、意識が全然違ってきます。
 昨年は、非可住地域に指定された石巻市大川地区で亡くなられた人たちの慰霊のための竹燈籠を作りました。竹燈籠の材料の竹は、山から切り出してくるため、若者の力なしにはできないのです。
 いま被災地で求められているのは住民の希望を叶えるソフト面の支援です。今年は、石巻市役所復興政策部で復興状況や課題を聞いた後に、沿岸部へ移動し活動を実施します。大川地区で竹燈籠を作ったり、雄勝地区で海岸に寄せられたままのがれきを片づけます。
 人が住まなくなると陸も海も荒れる。若者の力が非常に求められています。

自分の力を信じて挑戦してほしい 
 私のゼミでは被災地や途上国を訪問し、そこで生活している人から話を聞かせてもらいます。環境の違いを感じ、自分に何ができるかを考えることで、自分の役割が見えてきます。気づきから、想像力を働かせ、主体的に動く。何もなかったところ、ゼロをイチにする力を呼び起こすのです。
 多くの人との出会いや体験から自分の役割が見えてきます。その時は自分の力を信じてチャレンジしてほしいです。


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