3月12日(月)、タイ国からタイ保健省人材開発部門員と省立公衆衛生大学の教員の総勢21名が杏林大学を訪問し、16日(金)までの5日間、日本の高齢者介護制度に関する研修を受けました。
今回の研修の目的は、まず日本の高齢者介護制度と介護関連の人材育成システムを学ぶことにありました。タイでは人口の高齢化が進行しており、将来的な高齢社会の到来に備えてどのように高齢者介護制度を構築していくべきかが模索されています。またタイには日本の介護福祉士のような高齢者介護の専門職制度はなく、その担い手の育成をどう行っていくべきかが検討課題の一つになっているためです。
さらに家族介護が中心のタイでは将来的にも施設介護というよりはむしろ在宅介護を中心に考えているということから、今回の研修では、日本の高齢者介護の現状や介護専門職の養成課程を知るとともに、介護予防のあり方やそれを支える人材の育成方法を参考にしつつ、タイ独自の「高齢者健康プロモーター」という日本とは少し異なる人材開発のアイデアのヒントを得るという目的もありました。
まず初日は本学交流プラザにおいて、日本の高齢者介護制度の概要について、北島教授、岡村より説明がされました。午後は三鷹福祉専門学校の介護福祉科主任担当者から介護福祉士の養成カリキュラムの内容について説明を受けました。
2日目は三鷹市健康福祉課担当者より三鷹市における地域包括ケア、介護予防事業・日常生活支援総合事業を中心とした介護保険事業の概要について説明がされました。その後、松田理事長との懇談会が行われ、タイ側からのタイ国高齢化の現状と課題報告の後、活発な質疑応答が行われました。
3日目は、研修の場を長野県松本市に移して行われました。長野県は周知の通り平均寿命の長さとともに医療費の低さで常に上位に位置する県ですが、松本市はとりわけ市として「健康寿命延伸都市づくり」を目指し介護予防に積極的に取り組んでいる自治体の一つです。松本市ではまず特別養護老人ホーム岡田の里を訪問しました。この施設は現在の日本では標準的なユニット型の全室個室の施設で、施設長から施設概要について説明を受けた後、施設内を見学しながら利用者の皆さんとも交流しました。午後は松本市内の介護福祉士養成課程をもつ松本短期大学で養成課程の説明を受けた後、学生による介護演習を見学・体験しました。
4日目は同市の訪問看護事業所の管理者、医師会所属の医療コーディネーターによる、介護と医療の連携に関する説明を受け、医療ニーズと福祉ニーズを併せ持つ高齢者の地域での生活支援のあり方について理解を深めました。
5日目の最終日は武蔵野市役所を訪問しました。松下玲子市長より歓迎の挨拶をいただいた後に、高齢者支援課の方から介護予防事業に関する説明を受けました。そして、同市の高齢者総合センターにおいて高齢者の健康増進プログラムの一つとして定期的に実施されているコーラス、囲碁将棋、バイオリン教室等の場面を見学しました。帰校後、最後にスノードン副学長との懇談会が行われ、あらためて今後の連携のあり方について話し合いがされました。
日本の介護現場では、今後さらに深刻化することが予測される介護人材不足への対処策としての、外国人介護労働者受け入れ政策への関心が高まっています。他方、タイを含む多くのアジア諸国では人口の高齢化や社会構造の変化に伴う高齢者介護問題への対処のあり方を、まだ十分な知識や情報のない初期の段階から検討し始めています。日本は、国内の高齢者介護問題への対処策を考えるとともに、その対処策の推進が他のアジア諸国の高齢者介護問題の解決にも貢献しうるような形にもなるよう努めていくことが肝要であると再認識できた交流となりました。
(総合政策学部教授 岡村 裕)
2018.4.3