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研究成果:新規糖尿病薬イメグリミンが膵β細胞のミトコンドリアに与える影響が明らかに

青柳共太 (杏林大学医学部 細胞生化学教室 准教授)
今泉美佳 (杏林大学医学部 細胞生化学教室 教授)



【研究のハイライト】
新規糖尿病薬イメグリミンは糖尿病膵β細胞の不良ミトコンドリアを低下させることでインスリン分泌を促進し、β細胞死を抑制することを明らかにした。



【概要】
 食後に血中の糖(血糖)が増えると、膵臓にあるインスリン分泌細胞(β細胞)から血糖降下ホルモンであるインスリンが分泌され、血糖値が下がります。β細胞は血糖上昇に伴って細胞内に取り込んだ糖をミトコンドリア(エネルギー産生工場)で代謝することによってATP(エネルギー通貨)を産生し、インスリンを分泌します。そのため、インスリン分泌においてミトコンドリアは必要不可欠な役割を果たしています。ところが、ミトコンドリアは働き続けると徐々に傷ついて働きが悪くなり、ATPを効率的に産生できなくなってしまうことが知られています。従って、β細胞がインスリンを分泌し続けるためには、傷ついた不良ミトコンドリアを分解し、細胞内のミトコンドリア品質を良い状態に保ち続ける必要があります。細胞はミトコンドリア品質を維持するために、不良ミトコンドリアをマイトファジーと呼ばれる機構(ミトコンドリアのオートファジー(自食作用))によって分解しています。ところがインスリン分泌が低下した2型糖尿病患者のβ細胞では、マイトファジーによる分解の効率が低下し、その結果、不良ミトコンドリアが通常よりも多く観察されることが知られています。これは、β細胞におけるミトコンドリア品質の低下が2型糖尿病の発症に重要な役割を果たしていることを示唆しています。
 イメグリミン(商品名ツイミーグ)は近年開発された経口糖尿病薬で、筋肉や脂肪細胞による糖の取り込みを促進することと、β細胞からのインスリン分泌を促進することにより血糖降下作用を示すことが報告されています。このうちβ細胞では、イメグリミンがミトコンドリアに働きかけることにより、インスリン分泌が増強している可能性が示唆されていましたが、イメグリミンがミトコンドリア品質に与える影響については明らかではありませんでした。そこで私達は2型糖尿病マウスであるdb/dbマウスにイメグリミン、イメグリミンと類似構造を持つ糖尿病薬であるメトホルミン、さらにインスリンを投与し、β細胞におけるミトコンドリア品質管理への影響を調べました。その結果、イメグリミンやインスリンを投与した糖尿病マウスのβ細胞では不良ミトコンドリアが減少し、インスリン分泌が亢進すると共にβ細胞死が抑制されました。一方、メトホルミンを投与した糖尿病マウスのβ細胞ではミトコンドリア品質が改善されず、インスリン分泌の亢進およびβ細胞死の抑制も観察されないことがわかりました。
 これらの結果はイメグリミンがβ細胞のミトコンドリア品質を改善し、β細胞の機能を保護することで、2型糖尿病患者の治療において有効であることを示しており、β細胞におけるミトコンドリア品質管理が糖尿病治療の新しい標的となる可能性を示唆しています。
 この研究は新潟大学との共同研究の成果であり、文部科学省科研費(基盤研究B、基盤研究C)、ノバルティス科学振興財団、学内共同研究プロジェクト、大学間連携等による共同研究の助成を受けて実施されました。

【掲載論文】
発表雑誌:Scientific Reports
論文タイトル:Imeglimin mitigates the accumulation of dysfunctional mitochondria to restore insulin secretion and suppress apoptosis of pancreatic β-cells from db/db mice
筆者:Kyota Aoyagi(1), Chiyono Nishiwaki(1), Yoko Nakamichi(1),Shun-ichi Yamashita(2), Tomotake Kanki(2),
Mica Ohara-Imaizumi*(1)
[(1)杏林大学医学部 細胞生化学教室、(2)新潟大学大学院 医歯学総合研究科、*責任著者]
DOI:10.1038/s41598-024-56769-w

2024.4.4