医学教育学 矢島知治
杏林大学医学部のカリキュラムでは、臨床実習が4年生の11月から6年生の7月にかけて実施されます。このうち最初の1年間がBSL(Bed Side Learning)と呼ばれる付属病院での全科ローテーションで、残りが学外施設実習を含むクリニカルクラークシップです。
クリニカルクラークシップとBSLの違いは、BSLが網羅的で見学の要素が少なからず含まれる実習であるのに対して、クリニカルクラークシップは診療参加型臨床実習の体現がテーマの選択実習であるという点です。
診療参加型実習は文字通り診療に携わる形式のon the job trainingであり、医療系大学間共用試験実施評価機構(CATO)による公的試験であるOSCEとCBTをパスした学生だけに許可されますが、それでも医師免許はまだ所有していないので許可される内容には制限があります。そうしたことを背景に、本学のクリニカルクラークシップにおいては「医師としての頭の使い方」の鍛錬を学びの最重要のテーマに掲げています。具体的には、問診や身体診察といった患者さんからの情報収集と、カルテ記載やプレゼンテーションといった情報共有の技能に磨きをかけることに重きを置いています。患者さんおひとりおひとりに対して最善策が模索されそれが実施されている実臨床で役割を担当させていただくことで、学生自身も患者さんにとっての最善の医療を希求する姿勢を身に着ける、というのも期待されることです。
診療参加型実習では診療チームに所属して指導医の先生の元で研鑽を積んでいくことになりますが、チームに馴染むまでにも時間がかかるので実習期間は長めに設定するのが通例です。本学でもクリニカルクラークシップは4週間を1タームとしています。5年生のうちに3ターム、6年生になってから更に3タームのクリニカルクラークシップに取り組むと臨床実習が完了することになります。
ひとくちに病院と言っても、実践されている医療は施設によって様々です。実は大学病院では大学病院ならではの医療が展開されているので、学びの場を大学病院に限定すると学習内容が偏ってしまいます。学びの偏りを避けるためには、地理的な因子も医療施設の規模や形態についても考慮に入れる必要があります。実習の場を都内とその近郊に限定してしまうとそれによる学びの偏りが生じてしまうので、地方の病院における実習を含めることが望ましく、クリニック、診療所などの小規模な医療施設や訪問診療が果たす役割について学ぶためにはそこにフォーカスした実習が求められます。
そうしたことを踏まえて、本学のクリニカルクラークシップでは、6タームのうち4タームを
学外実習とし、さらにそのうちの少なくとも1タームは地方(現居住地から通うことのできない地域)での宿泊を伴う実習とすることを学生に求めています。また、付属病院での2タームの実習を4週間ではなく3週間に短縮することで1週間の実習枠を2つ捻出し、それを診療所などの小規模医療施設や訪問診療について学ぶ
地域医療実習にあてています。結果として、学生はクリニカルクラークシップの24週間のうち、18週間を学外施設での研修にあて、合計6つのバラエティーに富む施設で様々な指導医の先生の薫陶を受けることになります。おかげさまで学外での実習を経て学生が一回り大きくなって大学に戻ってくるということが日常になりつつあります。
1学年およそ120人の学生に対して、4週間の
学外実習を行うにはその4倍、
地域医療実習のためには2倍の実習枠が必要となります。一部の施設に過度なご負担をお掛けすることがないようにするためには相当数の施設のご参画が必要で、学生を受け入れていただいている施設の数は
学外実習と
地域医療実習を合わせるとおよそ200施設にもなります。
2023年11月から2024年7月までの間に本学学生のために
学外実習と
地域医療実習の枠をご用意いただいた御施設名をそれぞれ
学外実習施設一覧・
地域医療実習施設一覧としてご紹介します(
学外実習については、これとは別に学生個人からの実習希望を受け入れてくださった施設も20ほどございます)。
指導医の先生方をはじめ、お力添えを賜っている皆さまに厚く御礼申し上げます。