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「観光と環境」特別シンポジウムを開催しました

2011年5月14日(土)、杏林大学外国語学部は観光と環境のかかわりを考える特別シンポジウムを開催しました。今回はおもに自然環境をフィールドに活躍されてきた多彩なゲストをお招きし、観光と環境のアプローチについて考えました。

<主催>杏林大学外国語学部
<後援>NPO法人日本エコツーリズム協会、(公社)日本環境教育フォーラム、日本航空㈱、㈱ジェイティービー、㈱アマデウス・ジャパン、NPO法人世界遺産アカデミー

1.基調講演「知床でヒグマに出会って思うこと」
 瀬田信哉氏(元環境庁自然保護担当審議官、元国立公園協会理事長)

 ヒグマは昔から人間を襲う猛獣として恐れられてきた。しかし、知床でその様子を観察してみると良好な関係を築ける相手であることがわかる。
約10年前、知床でヒグマに出会った。われわれとヒグマの距離は約20メートル程度。お互いを見ているが、お互いに危害を加える気はない。おそらくそれがわかったヒグマは、そのまま川で水浴びに入った。
野生動物と良好な関係を築くには、お互いがお互いの存在に気付いてはいるが、無視しあえる「間合い」を作る必要がある。人間の側から見れば「敬して遠ざける」(熊に人間の食べ物を食べさせない、自然に人間の生活ゴミを残さないなど)ということである。
 わかり合えるはずなのに、わかってもらえないのが野生生物と人間との基本的なありよう。そういった中で関係を築くには、相手をもっと知ろうとする態度と、絶えず関心を持ち続けようとする倫理的な意識を持つことが必要である。このスピリットを持つことにより、野生動物との対話は人間にとっても「幸せな異交通」となるであろう。

2.パネルディスカッション「観光と環境のアプローチ」
 パネリスト:遠藤稔氏(環境省皇居外苑、自然公園の保護と利用)
       南正人氏(麻布大学獣医学部講師、観光と野生生物)
       木村太郎氏(株式会社EGGS、エコツアー)
 ファシリテーター:井手拓郎(杏林大学観光交流文化学科講師)


井手:観光と環境の関係を考えていくと、人と自然、制度、保護・保全、産業活動といったアプローチが見えてくる。その中で特に、環境を保護・保全し、観光を振興し、そして地域経済へ効果をもたらすエコツーリズムという考え方や、その考え方を具現化したエコツアーというものが、昨今の社会において注目を集めている。まず、日本のエコツーリズムの現状について考えてみる。

①エコツーリズムは本当に、環境保護・保全のために役立っているのだろうか?
南氏:人間の中には自然を楽しみたいという意識がある中で、エコツーリズムは確かに自然を保護・保全するために役に立つ考え方。しかし、民間企業としてエコツーリズムにかかわると、なかには「何のためのエコツーリズムか」を忘れ、自然環境を保護・保全するという理念から逸脱してしまうことがある。これではエゴツーリズムになってしまう。必ずしも、エコツーリズムが環境を保護・保全することに役立っている、とは言えない。
木村氏:地域住民、研究者、行政など様々な立場の方と交流して、環境を保護・保全するための情報や、地域の情報を得ることが、ガイドが地域を守るための重要なポイント。例えば、行政の方と一緒に国立公園内の行政による工事現場などを歩くことで、行政の環境保全のための取り組みを正しく理解することができる。
遠藤氏:行政は法律を作って自然を守るだけではなく、現地に関係する様々な立場の人々(地域住民、研究者、観光業者など)にとっての共通の利点(一致する点)を見出し、協力し合う仕組み作りをすることが役目である。

②観光、特にエコツアーの現場で、環境に対して配慮していることは何か?
木村氏:現場としては、ゴミ箱の撤去や規制導入の働きかけなどを実施している。またガイドの質の向上を目指している。それは、ガイド能力はもちろんのこと、ビジュアルにも魅力的であるように心がけている。また来訪者には、その土地を好きになって、そこを大事にしてもらえるように努力している。
南氏:ガイドすることが目的になってしまうツアーガイドでは、環境保護・保全や地域貢献はできない。伝えたい、伝えなければならないことがあるから、ガイドをする、という理念が重要。この理念から踏み外さないガイドを育成しなければならない。単純にお金のためと割り切ってガイドする人は、「環境保全のために踏みとどまる」という選択ができなくなってしまう。保全のために、地域のために行動できる人が、ガイドになってほしい。

③環境保全のために踏みとどまる
遠藤氏:人間が入るとどうしても自然は壊れてしまう。しかし、その地域にすむ住人や研究者の活動を止めることもできない。そこで行政としては、ゾーニングによる規制などをすることで、そこでの経済活動を停止させることなく自然を守ろうとしている。最も大事なことは、規制も含めた活動に関し、地元住民・行政・研究者・観光業者・ガイドなど、さまざまな関係者が一堂に会して議論できる場を用意することである。
木村氏:管理の行き届いた国立公園などは、来場者も規制を理解してくれる。一方、国立公園などの規制が行いやすい場所とは違い、里山などは人の手が入ることによって環境が守られることもある。いずれにせよガイドは、100年後の自然をイメージして、自然の仕組みや行政の施す規制を正しく知り、来訪者に伝え、一緒に守っていくことも仕事のひとつであろう。

④持続可能な観光・ガイドに必要なことは、どんなことか?
南氏:自然体験豊富な人々がたくさんいたにも関わらず、自然を壊して経済活動をしてきた日本の歴史を見ると、日本の環境教育にも問題があるのではないだろうか。これからのガイドは「自然大好き!」というだけではなく、自然環境を科学的に広く深く理解し、ガイドの価値を高め、来訪者に自然環境への興味を真に持たせることを意識してほしい。そういうガイドならきっと、ツアーの参加者は高単価な参加費でも快く支払い、それが地域の経済にも貢献し、持続可能となっていくのではないだろうか。
遠藤氏:自然学校などのガイドは、その稼業だけではなかなか食べていけないのが現状。質の高いガイドが続けられるよう、社会・経済システムを整えることが課題である。
木村氏:環境に携わる人間は何となく「お金を儲けてはいけない」というイメージがある。そうした固定観念から脱却し、環境保全を推し進める費用を捻出するためにも、適切な経済的対価を得ていくことがこれからのガイドには必要だろう。

⑤まとめ
井手:観光と環境には、旅行者・ガイド・行政・地元住民・研究者・観光事業者など、あらゆる主体がかかわりを持っており、環境を保護・保全しながら観光を進めていくために、その主体同士が協力をしていかなければならないことが、あらためて確認できた。観光と環境の関係にアプローチするためには、切り取られた瞬間だけでなく、過去から現在、現在から未来を展望し、その上でさまざまな主体がお互いの関係性を意識し、皆が課題に対して関心を持ち続けることが必要である。

【来場者からのコメント抜粋】
行政関係者、研究者、ツアーガイドの組み合わせで、それぞれの立場での発言が面白かった。そのため、他の著名人の講演会とは違った面白さがあった。観光ガイドを利用することはこれまでなかったが、エコツアーに参加したくなった。(40代男性会社員)

ガイド視点、行政視点からのエコツーリズムが見えて、とても興味深かったです。産業と保全のバランスを考えていくことが、今後のツーリズムにつながると思いました。また、観光客が2回以上来たくなる観光地づくりを考えてみたいと思いました。(10代女子大学生)

人が来ることによって環境が破壊されることと、保護していけることがあって、その地域にあった守り方をしていかなければいけないのだなと感じました。そして自然を守るだけでも良くないし、地域経済だけを良くするのも良くなくて、両方が上手く成り立っていくためにエコツアーやガイドの力が重要なんだなと思いました。
しかしそのエコツアーというのも、必ずしも環境を保全しているとは言い切れないことも現状だと知りました。
どうすれば自然のためにも良く、地域や観光客のためにも良いことなのか、関わっている全ての人で考えていかなければいけないと思いました。(20代女子大学生)