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杏林大学社会科学学会 平成25年度第1回定例研究会が開催されました。

6月19日に杏林大学社会科学研究会の平成25年度第1回定例研究会が下記の通り開催されました。

    報告者: 荒井 将志 先生 (杏林大学総合政策学部講師)
    司 会: 木村 有里 先生 (杏林大学総合政策学部准教授)
    報告テーマ:「アジア多国籍企業の技術開発力についての一考察 ー特許分析による国際比較ー」
    会 場: G棟2階大会議室

【報告の要旨】
 2012年に発表されたWIPOによるPCTを利用した2011年特許出願件数ランキングによれば、1位ZTE(中国)2,826件、2位パナソニック(日本)2,463件、3位Huawei(中国)1,831件、4位シャープ(日本)などとなった。中国企業2社が先進国多国籍企業の特許出願件数を軒並み超えたのである。

 本報告の問題意識は、まさにアジア新興国の多国籍企業が急激に特許出願件数を増加させている理由は何かという疑問に置かれている。とりわけ、これまで学術研究の領域においては、しばしば特許権の件数が企業の技術開発力の指標として利用されてきた。それならば、特許件数が多ければ多いほど技術開発力が高いことになり、アジア新興国の技術開発力が先進国のそれを追い越すほどまでに成長したということになるのであろうか。こうした問題意識から本報告では、そのひとつの要因として、アジア新興国の多国籍企業の研究開発人材に焦点を当てながら、他国との比較研究からこの問題を考察する。

 結果は次のようなことであった。第一に、アジア新興国の多国籍企業は、R&D拠点を国際化しているが、中国ZTEやHuawei、韓国LGは、特許技術の開発における外国人発明者の貢献は極めて小さく、そのほとんどが国内発明者によって開発された技術であった。第二に、先進国の多国籍企業もR&D拠点を国際化しているが、欧米の多国籍企業は、特許技術の開発における外国人発明者の割合が総じて高かった。第三に、日本の多国籍企業は、技術開発力を有する先進国でありながら、アジア新興国と同様に、特許技術の開発における外国人技術者の割合は極めて小さく、そのほとんどが国内発明者によって開発された技術であった。

 先行研究に対して本研究からはいくつかの指摘ができる。第一に、米国のR&D活動における国内発明者の割合が低下し、外国人発明者の割合が高まっていた。第二に、欧州と日本の傾向について、先行研究と大きな違いは見られないが、本研究の中国や韓国を加えて比較することで、日本を加えたアジア企業の開発が国内指向であることが浮き彫りにされた。第三に、研究開発の「三極体制」、すなわちR&Dの中心は本国、米国、欧州であると著されていたが、本研究からは、欧米の先進国のみをR&D拠点の中心とみなす「三極体制」という表現には限界があるように思われる。(荒井将志 講師)

荒井 将志 先生

荒井 将志 先生

会場の様子

会場の様子

【総評】
 平成25年6月19日社会科学学会定例研究会が本学部荒井将志講師により、表記タイトルの下で行われました。報告内容は、多国籍企業の技術開発力を「特許権」を鍵として比較分析するものであり、現代における特許権の重要性などを丁寧に解説されたうえで、国際的な特許獲得数、特許発明者の国籍などに関する数多くのデータを示されました。そこから今後、グローバルなコンセンサス標準化の交渉テーブルにおいて、自国研究者による開発力を高め特許獲得数を増しているアジア新興国のプレゼンスが高まるであろうこと指摘されました。
 多数のデータが示された報告に対しては、総合政策学部らしく他分野の視点からそれらを読み解いた場合に得られるインプリケーションや、マクロな視点から国家的特徴ないし政策の影響などについてコメントが寄せられました。このことは、荒井講師の研究のさらなる発展につながるものであったと思います。(木村有里 准教授)


荒井先生のページはこちら

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                                                   2013年7月8日