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第7回杏林CCRC研究所セミナーについて

第7回杏林CCRC研究所セミナー報告


日 時:平成26年7月25日(金)13時〜15時

場 所:杏林CCRC研究所分室(三鷹市下連雀3-38-4 三鷹産業プラザ304)


講演者:ポール・スノードン Paul Snowden(杏林大学 副学長)

講演タイトル:イギリスの高齢者事情について
    

 平成26年7月25日(金)、杏林CCRC研究所(三鷹産業プラザ内)で、本学のポール・スノードン副学長を講師としてむかえ、第7回杏林CCRC研究所セミナーが開催された。研究所からは蒲生、相見、松井、多田が参加した。杏林大学からは熊谷文枝名誉教授が出席した。学外からは、濱絵里子氏(一般社団法人てとて)、林田昭子氏(NPO法人鷹ロコ・ネットワーク大楽)が出席した。

 セミナーでは、イギリスにおける高齢者ケアの歴史的背景と現状について、講師のスノードン氏による解説が行われた。スノードン氏によれば、日本は西洋医学の導入が遅かったと言われることがあるが、必ずしも西洋が大きく先んじていたわけではない。特に、高齢医学(geriatrics)は、西洋でも19世紀半ば以降にようやく発達したものである。パリに老人ホームが設置されたのが1881年であり、イギリスでは1926年に高齢者のための病棟がマージョリー・ウォーレンによって設けられた。それと同時期に、「老年学」を意味する“gerontology”という用語も登場するようになった。1947年には、高齢医学に関する学会としてMedical Society for the Care of the Elderly(59年にBritish Geriatrics Societyへ改名)が発足した。
 高齢者にとって重要な各種の政策が生まれたのも、20世紀に入ってからである。ロイド・ジョージの指導のもと、1908年に年金についてOld Age Pensions Actが制定され、1911年には健康保険に関してNational Health Insurance Actが制定された。年金は、1926年のContributory Pensions Actによって、税による補助金方式から、労働者も払い込む方式へと変化した。そして、高齢者ケアの画期をなしたのが、ウィリアム・ベバレッジが第二次大戦中から構想し、1948年に実現したNHS(National Health Service)創設であった。
 その後、インフレや失業率上昇、産業の衰退に直面したイギリスは、80年代にサッチャー政権下で改革と民営化を進めた。そこでのキーワードは、国家によるコントロールの縮小と自由市場経済の重視であり、公営住宅(council housing)の民営化などがその例である。改革は労働党のブレア政権にも引き継がれ、薬の処方料の値上げなどが実施された。現在のイギリスでは、各住民が家庭医(GP)に登録し、GPから病院を紹介してもらうという仕組みが採用されている。
 NHSのウェブサイトでは、NHSが運営しているケアホームの選び方をはじめ、各種の高齢者施設に関して情報が提供されている。ケアホームの民営化も行われてきたことから、そこでも“choice”がキーワードになっている。同時に、劣悪なケアホームに対する取組みがメディアで大々的に取り上げられるなど、ケアホームの質に対する関心も高まっている。さらに、移民の流入により、ケアホームなど高齢者施設の従業員の相当割合を移民労働者が占めていることも、近年のイギリスに見られる大きな特徴である。
 
 セミナーでは、スノードン氏自身及び氏の父に関する経験談も交えて、活発な議論が展開された。イギリスの高齢者ケア事情には日本とは異なる点も多々ある一方で、国民皆保険制度の下での高齢化への対応など、共通する部分も多い。GPへの登録制や高齢者施設での移民労働者の役割の増大など、今後の日本における高齢者ケアのあり方を考える上でも、非常に示唆に富むセミナーであった。 

杏林CCRC研究所
松井孝太


セミナー風景

セミナー風景