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第9回杏林CCRC研究所セミナーについて

第9回杏林CCRC研究所セミナー報告


日 時:平成26年10月30日(木)15時〜17時

場 所:三鷹ネットワーク大学(三鷹市下連雀3-24-3 三鷹駅前協同ビル3F)


講演タイトル:三鷹市の地域ケアネットワークと包括ケアについて

情報提供者: 市川一宏(ルーテル学院大学元学長・現学事顧問)
    

 平成26年10月30日(木)、三鷹ネットワーク大学で、ルーテル学院大学の市川一宏氏を講師として、第9回杏林CCRC研究所セミナーが開催された。研究所からは蒲生、相見、松井、多田が出席した。杏林大学からは依田千春地域交流課課長、古本泰之地域交流委員長、医療福祉相談室の加藤雅江氏、八王子事務部教務課の清水みさ子氏と氏江規雄氏が出席した。三鷹市からは、河村孝副市長、伊藤幸寛健康福祉部長、馬男木由枝高齢者支援課長、海老澤博行地域ケア担当課長、土屋宏企画部調整担当部長、大朝摂子企画経営課長、古園高齢者支援課担当課長、企画経営課の斎藤氏、吉田氏、半田氏が出席した。

 セミナーでは、はじめに、司会の斎藤氏から三鷹市における杏林大学の「地(知)の拠点整備事業(COC事業)」の概要説明が行われた。次に、蒲生からの挨拶と、これまでのCOC事業の経緯及びCCRCというコンセプトについて説明が行われた。
 続いて、講師の市川氏から、三鷹市における地域ケアネットワークと包括ケアの概要に関して情報提供が行われた。市川氏は、社会福祉制度政策や地域福祉、高齢者福祉を専門とし、「地域の福祉力」向上や各地域に合った地域の福祉実践を研究テーマとされている。35年近くに渡り、ルーテル学院大学が所在する三鷹市において地域福祉問題に取り組まれ、三鷹市の健康福祉審議会副会長や社会福祉協議会副会長を務めた実績を有している。また、2001年から2013年にかけては、ルーテル学院大学学長を務められた。
 市川氏によれば、今日の地域福祉には、主なものだけでも、孤立死、自殺、引きこもり、ホームレス、100歳・90歳問題、高齢者虐待、児童虐待、(とりわけ高齢者・障害者の)消費者被害、災害時要援護者問題、行方不明者増加、生活保護受給者(生活困窮者)増加といった問題が存在している。また広く知られているように、2025年には団塊世代が後期高齢者に到達し、高齢化問題が一層深刻となるという問題が存在する。この2025年問題に対応するには、今から行動を始めることが不可欠であるという。
 そこで近年、各地で地域包括ケアシステムの構築が進められている。これは、高齢者が住み慣れた地域で住み続けることができるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援が一体的に提供されるシステムを指す。その三鷹における取組みが、地域ケアネットワークである。自らや家族による「自助」を基本としつつ、住民主体で、地域住民・行政・専門機関等が協働して地域に密着して支えあうという「共助」の仕組みづくりを構築していくというのが、そこでの基本的な発想である。自助・共助でも困難な場合には、「公助」すなわち自治体等が提供する公的サービスの出番となる。しかし、個々の高齢者等がコミュニティから孤立することによって、自助から直接に公助へ頼らざるを得なくなる事態を避けるためにも、地域コミュニティによる共助の仕組みを強化していくことが重要である。生活困窮者自律支援制度などについても、コミュニティ作りが本質的な課題であるという。
 市川氏によれば、三鷹市における社会福祉を考える際には「接ぎ木」という視点が欠かせない。三鷹市では長年様々な地域福祉の実績が積み重ねられてきており、新たな施策を考える際には、いかにそのような既存の資源を有効活用しつつ効果的に接合していくのかという視点が重要である。例えば三鷹市では、1977年に既にコミュニティセンター構想が生まれ、歴代の市長のもとで綿々と住民協議会の組織体制が築かれてきた。行政は「金を出すが、口を出さない」を基本方針として、コミュニティセンターが地域住民主体で管理・運営されてきたことは特筆される。また、市川氏自身が、三鷹市における地域福祉に関して非常に多数の計画・提言に関わってきたことも紹介された。
 市川氏は、今後の三鷹市の地域ケアを考える上での基本的分析視点として、「5つのC」を挙げる。一つ目のCはcommunity、すなわち三鷹市におけるこれまでの地域ケアの取組みの実績である。二つ目がcitizen participation。市民と自治体が対等なパートナーとして認め合い、市民が主体的に関与することである。三鷹市はコミュニティセンターの実績もあり、他市に比べて自治体と市民の協働が比較的成功してきた事例と言える。今後も、市民参加の原則を堅持することが重要である。三つ目のCはcollaborationである。二つ目の市民参加に加えて、健康福祉審議会や社会福祉協議会、杏林大学等の病院、医師会、近隣大学などの関与が必要である。例えば、医師会と地域福祉の間の連携や、地元産業との連携が重要な課題である。また、教育と福祉のエリアが上手く重なっていないなど、様々な圏域のズレも大きな問題である。四つ目のCはcapacity buildingである。この点に関しては、三鷹ネットワーク大学の開設、まちづくり三鷹会社設立、ルーテル学院大学と行政・社協の協働による「地域福祉ファシリテーター養成講座」などが特筆される。地域福祉活動の核となる住民養成を目的とした「地域福祉ファシリテーター養成講座」については、その実施体制や講座修了生の活動例などが市川氏から紹介された。最後のCはcheck and evaluation、すなわち第三者的な評価と三鷹市自身のチェック機能の強化である。協働のためには、各組織の信頼性・透明性が前提であり、三鷹市自身がチェックシステムを機能させることが信頼を生み出すという。
 さらに、市川氏と三鷹市地域ケア担当課長の海老澤氏からは、三鷹市における地域ケアの具体的な取組みとして、7つのコミュニティ住区で展開中ないし今年度中に設置予定の地域ケアネットワークが紹介された。地域ケアネットワークには、行政や地域包括支援センター等の関連機関に加え、住民協議会や町会・自治会等の地域の様々な活動主体、医師会・病院、民生委員・児童委員、市民ボランティアなどが参加しており、地域の課題に協力して対応できるよう情報共有等が図られている。三鷹市の内部でも地域的な多様性があり、課題も様々であることから、それぞれの住区の状況に応じた活動を展開しているとのことであった。
 三鷹市においてこれまで積み上げられてきた地域ケアの取組みと今後の課題について、三鷹市で長年活動に取り組まれてきた市川氏から直接情報を得ることができ、三鷹市関係者との共通理解を深め、今後の杏林大学の役割を考えていく上で、非常に有益なセミナーであったと思われる。

杏林CCRC研究所
松井孝太

セミナー風景

セミナー風景

市川一宏先生

市川一宏先生

河村副市長

河村副市長