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新たに展開した薬疹の世界 講演会報告

杏林大学「地(知)の拠点整備」事業
杏林大学・三鷹ネットワーク大学 共催

市民公開講演会

新たに展開した薬疹の世界

日時:平成26年11月12日(水)午後6時〜午後7時30分

場所:杏林大学三鷹キャンパス 大学院講堂

講演者:塩原哲夫(杏林大学医学部教授)
    加藤峰幸(杏林大学医学部助教)、水川良子(杏林大学医学部准教授)

 平成26年11月12日(水)杏林大学三鷹キャンパス大学院講堂にて杏林大学公開講演会「新たに展開した薬疹の世界」が開催された。研究所からは蒲生、相見、松井が出席した。講演に先立ち、杏林大学広報担当者から杏林大学医学部皮膚科学教室 塩原哲夫教授のご紹介の後、塩原教授からご挨拶と本講演の演者杏林大学医学部皮膚科学教室 加藤峰幸助教と水川良子准教授の紹介があった。両演者から「新たに展開した薬疹の世界」と題した講演が行われた。

 加藤助教からは、薬疹の種類、発症時期、再発予防についてご説明頂いた。薬疹とは薬が体内に入ることにより皮膚や粘膜に症状がでる主にアレルギー性の病気である。皮膚に紅斑や赤いぶつぶつ(紅色丘疹)、口や鼻の粘膜の爛れなどを起こすことがある。薬疹は多彩な病変をもたらし、播種状紅斑丘疹型薬疹、固定薬疹、重症薬疹などに分けられる。播種状紅斑丘疹型薬疹は、麻疹(はしか)や風疹と同じように全身に小型の紅斑が出る。またエプスタイン・バー・ウイルス(EBウイルス)感染時にも似た症状があらわれる。固定薬疹は、同じ薬を内服する度に繰り返し同じ部位に赤紫色の斑が生じ、症状が部分的のため他の疾患と判別しづらいとのことである。
 重症薬疹は3つに分けられて、①スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)では高熱を伴って皮膚や粘膜に紅斑や爛れが現れる。②中毒性表皮壊死症(TEN)ではSJSの重症化したもので広範囲に皮膚の爛れが見られ、時に死亡することもある(死亡率はおよそ20〜30%)。③薬剤性過敏症症候群(DIHS)では特定の薬を長期間(2〜6週間)内服後に生じ、経過中に体内潜伏しているヘルペスウイルスが関わっており、高熱と肝機能低下がある。
薬疹の発症時期はDIHSを除き多くは原因薬剤の服用後2週間以内に発症する。DIHSの発症は原因薬剤服用後2週間以上となっている。薬疹の再発予防には、どの薬でどのような薬疹を生じたのか、そしてどのような検査法で陽性となったのかが書かれた薬疹カードを薬が処方される度に必ず提示して避けてもらうことが挙げられた。

塩原哲夫先生

塩原哲夫先生

加藤峰幸先生講演風景

加藤峰幸先生講演風景

水川良子先生講演風景

水川良子先生講演風景

 水川准教授からは、薬疹の治療、後遺症、原因薬の探索、最近のトピックスについてご説明頂いた。薬疹の治療については軽症重症問わず薬剤を中止する。軽症の場合は抗アレルギー薬やステロイド療法で、重症の場合は入院が必要になる。重症薬疹の治療法には、最もポピュラーで効果も確立されていて薬疹全般に適応する副腎皮質ステロイド内服療法、その他にステロイドパルス療法、免疫グロブリン製剤大量靜注療法、血漿交換療法などがある。薬疹による後遺症に関してはSJSやTENでは眼の粘膜が強く傷害されると視力低下やまぶたの癒着など、DIHSでは劇症1型糖尿病、甲状腺疾患、膠原病などを続発症として生じることがあり長い経過観察が必要となる。薬疹の原因薬の探索は、病歴(症状出現までの経過や薬使用期間、過去に薬疹発症の有無など)を参考とする。また血液中のリンパ球に薬を添加してリンパ球の増殖を見る薬剤添加リンパ球刺激試験や背部に疑わしい薬を貼って反応をみるパッチテストなどがある。近年、特定の薬と遺伝的な体質(素因)を持っている人に発症しやすいことが明らかになってきている。このため、どのような遺伝的素因を持つ人がどの薬で薬疹を生じるのかが調査研究されていることや、病院・診療所で処方された医薬品などを適正に使用したにも関わらず発生した副作用により日常生活が著しく制限される健康被害について救済給付する医薬品副作用被害救済制度などのトピックスをご紹介頂いた。

 薬は病気治療・健康維持のために必要なものであるが、薬により生じる薬疹は誰にでも起こり得ることである。本学医学部の塩原教授をリーダーとする皮膚科学教室はアレルギー疾患、特に薬疹、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹などの病態解明、治療を優先的な研究課題としており、国内外の研究者との共同研究により多くの国際的な業績をあげている。さらにこれらの疾患の治療に関して、単に目先の先進医療を追うのではなく20年後、30年後にも通用しうる安全かつ有効な治療を目指しているとのことである。薬疹はアレルギー反応を介するため、薬剤中毒とは異なり用量に依存しない場合や数年を経て発症し因果関係が明瞭でない場合もある。その発症の契機は不明である場合も多いが、遺伝的素因と薬疹の関係性が明らかになれば個別化医療の実現によって安全な治療や健康維持に期待出来る。

杏林CCRC研究所
相見祐輝