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がん医療の最前線〜がんの予防と最新治療 講演会報告

杏林医学会 平成26年度市民公開講演会
がんプロフェッショナル養成基盤推進プラン、杏林大学「地(知)の拠点整備」事業、
杏林大学、三鷹ネットワーク大学 共催


がん医療の最前線〜がんの予防と最新治療

日時:平成26年11月15日(水)午後1時〜午後3時

場所:杏林大学三鷹キャンパス 医学部講義棟2階 第一講堂

座 長:古瀬純司(杏林大学医学部腫瘍内科学教室)
講演者:長島文夫(杏林大学医学部腫瘍内科学教室)
    阿部展次(杏林大学医学部消化器・一般外科学教室)
    津金昌一郎(国立がん研究センター がん予防・検診研究センター)


講演風景

講演風景

 平成26年11月15日(土)午後1時から3時まで、杏林医学会を中心とし杏林大学地(知)の拠点推進事業、がんプロフェッショナル養成基盤事業の共催による平成26年度市民公開講演会「がん医療の最前線〜がんの予防と最新治療」が開催された。企画と司会を担当された医学部腫瘍内科学古瀬純司教授は「現代社会は、三人に一人が「がん」で亡くなり、二人に一人が「がん」に罹患する時代であり、「がん」は怖い病気であるとともに身近な病気です。がんにかからないためにはどうすればいいのか、もしがんになってしまったら、どんな治療が行われているのか、みなさん関心が高いのではないかと思います。 今回の講演会では、がんの予防から最新の治療まで専門の先生にわかりやすくお話しいただきます。「がん」を正しく知っていただく機会となれば幸いです。」と、この講演会の趣意を述べられている。
 今回の講演会では、医学部腫瘍内科学教室長島文夫准教授が特別講演1として「がん薬物療法の進歩と外来在宅がん診療について」、医学部消化器・一般外科学教室阿部展次准教授が特別講演2として「体にやさしい消化器がんの二つの最新治療〜内視鏡治療と腹腔鏡下手術〜」、さらにがん疫学研究の第一人者として知られる国立がん研究センターがん予防・検診研究センター・センター長津金昌一郎氏が特別講演3として「がんを遠ざける生活習慣」の講演を行った。


特別講演1「がん薬物療法の進歩と外来在宅がん診療について」

 午後1時より、本学医学部腫瘍内科学教室長島文夫准教授により特別講演1「がん薬物療法の進歩と外来在宅がん診療について」が開催された。腫瘍内科学教室は2008年に開設され「化学療法を中心にがん治療の診療、研究、教育を行っている。がん制圧のためには多方面からのアプローチと協力による多業種間チーム医療が必須であり、病理学、薬理学などの基礎医学、外科、内科、放射線科などの臨床医学、さらに薬剤部、看護部、ソーシャルワーカーなどなど多くの部門の協力が進められている。腫瘍内科は、そのような包括的ながん教育・研究・診療の中心的役割」(HPより)を果たしている。長島准教授は腫瘍内科学教室の中で「高齢がん患者における高齢者総合的機能評価の確立とその応用に関する研究」の中心となり活躍されている。

 本講演では、はじめに「がん対策推進基本計画」について解説が行われ、続いて食道がんを例に臨床病期と集学的治療について、大腸がんを例に医療費と遺伝子検査について、最後に高齢者のがん診療と日本の薬事行政について解説が行われた。
「がん対策推進基本計画」は「がん対策基本法」に基づき策定され、5年ごとに見直すこととなっている。平成24-28年度計画では重点的に取組む課題として➀放射線療法、化学療法、手術療法の更なる充実とこれらを専門的に行う医療従事者の育成、②がんと診断された時からの緩和ケアの推進、③がん登録の推進と新しい課題として④働く世代や小児へのがん対策の充実が挙げられている。本講演では➀の中で特にチーム医療の推進と集学的治療の質の向上と、②の中で特に在宅緩和ケアに関する事項を取り上げた。
 がんの診断と治療は、学会等が作成する診断と治療のガイドラインに従い、がんの状態を内視鏡検査や各種の画像診断により見極めステージを決定するところから始まる。診断されたステージにより治療方針が選択される。従来は外科的な切除が困難な進行した症例でも、適切な抗がん剤や放射線療法を組み合わせることで腫瘍の縮小を図り切除する治療、すなわち幾つもの治療法を組合せる集学的治療を進めることで効果を挙げることが可能となる。
 近年は腫瘍に特異的に起こっている変異を標的とする分子標的薬と呼ばれる新しい抗がん剤が多数開発されている。腫瘍は一般に正常組織には見られない幾つかの遺伝子の変異が重なり異常増殖が起こり、同じ大腸がんでも患者さんにより変異の種類は異なっている。治療前に患者さん毎のがんの遺伝子変異を十分詳細に把握し適切な抗がん剤を選択することで治療効果を挙げること、すなわち個別化医療を実現できる。
 がん治療の技術的進歩に伴い、高齢社会と高齢者のがんに特有の診療上の課題もある。特に本学が位置する首都圏では高齢者数が顕著に増加し、診療体制の工夫が求められる。本学高齢科の入院患者の中には多くの担がん患者が含まれ、治療方針の決定や退院後の支援体制、認知機能の低下等の課題に直面する。
 本学病院を含む大学病院は特定機能病院であり、集学的治療や個別化医療等の高度の医療を提供し、また高度の医療の技術開発を行うことが求められている。従って、高齢のがん患者の治療には本学での集学的治療のみならず、地域の病院や診療所と一体となった在宅医療への取り組み、さらに介護やリハビリも一体となって取組む必要がある。

 本講演ではがんの集学的医療の目覚ましい進歩が紹介され、また同時に高齢社会でのがん診療の課題が提示された。本学付属病院では2008年に「がんセンター」を開設し、腫瘍を取り扱う全ての診療科、薬剤部、看護部、緩和ケアチーム、がん相談支援室等の横断的連携を図ってきた。また地域医療連携にも積極的に取組んでいる。本学が位置する三鷹市をはじめとする首都圏郊外の超高齢化を目前として一層の充実と活躍が期待された。

特別講演2「体にやさしい消化器がんの二つの最新治療〜内視鏡治療と腹腔鏡下手術〜」

 午後1時半より本学医学部消化器・一般外科学教室阿部展次准教授により特別講演2「体にやさしい消化器がんの二つの最新治療〜内視鏡治療と腹腔鏡下手術〜」が行われた。
消化器・一般外科では腹腔鏡下手術、救急疾患に対する緊急手術を含め、手術症例数はここ数年、年間1000例前後を推移している。食道や胃、大腸などの腫瘍(ポリープや早期癌)に対する内視鏡的切除や、総胆管結石に対する除石治療などの内視鏡治療も積極的に行われ、日本肝胆膵外科学会高度技能医修練施設(A)の認定を受けている。癌に関する基礎研究、膵炎や肝内結石症に関する基礎研究、画像診断や腹腔鏡下手術、内視鏡的治療に関する臨床研究、新しい低侵襲手術に関する動物実験・臨床研究など、研究面においてもアクテイブに活動し、それらの成果は数多くの学会発表、邦文・英文報告によって国内のみならず世界に向けて発信している。阿部准教授は消化器疾患に対する低侵襲治療、内視鏡外科を専門としている。

 本講演では、胃がんを中心に内視鏡的切除法や腹腔鏡下手術の実際について解説が行われた。
胃壁は粘膜、粘膜下層、筋層からなり、胃がんはほぼ例外なく粘膜から生じる。がんが筋層手前まで浸潤したものを早期胃がん、筋層に達したものを進行がんという。早期胃がんは適切な処置をすればほぼ治る。
胃がんの治療では、進行度によって内視鏡的切除、腹腔鏡手術、開腹手術と変わる。ごく早期のものは内視鏡、早期がんは腹腔鏡手術、進行がんは開腹手術となる。
 腹腔鏡手術は、腹腔(おなかの中)を二酸化炭素で膨らませて、腹部に1.0 ~ 1.5cm程の穴を4-5箇所あけトロッカーを留置し、トロッカーを介してカメラ(腹腔鏡)や超音波石灰凝固装置、自動縫合器などを入れてモニターを見ながら行う。開腹手術の創と比較するとその差は明らかである。胃がんの7割は幽門側胃切除術で行われる。幽門側胃切除術は胃の2/3を切除し、おへその外側を4〜7cm(体型により異なる)ほど開けて取り出し、胃十二指腸吻合を行う。腹腔鏡下で胃の全摘も可能である(胃全摘術)。幽門側胃切除や胃全摘に関わらず腹腔鏡下胃切除術後は翌日には歩行開始、3日目には食事、8から10日目で退院となる。腹腔鏡手術は痛みが少なく早期回復が見込め、出血量が少ないため輸血が必要ない、術後癒着が少ないため腸閉塞になりにくい、傷が目立たない、拡大視効果により繊細な手術が可能などのメリットがある。胃がん以外にも大腸がんや膵腫瘍(良性、低悪性度腫瘍)、食道がん、肝がんなどが腹腔鏡手術で行われる。また近年では血管や臓器の奥行までわかる3D腹腔鏡手術や関節を持ったヒトの指の様な手術道具が使えるロボット支援手術が導入されており、より繊細な手術が可能である。
 内視鏡治療は粘膜下層に少し達したくらいまでの浸潤した比較的浅く小さい早期胃がんが対象となる。ほぼ内視鏡的粘膜下層剥離術(がん周辺を切り、下から剥ぎ取る)で行われる。粘膜を剥ぐため潰瘍が出来るが、切除から2日目には食事摂取、6日目には退院する。潰瘍に対して8週間の抗潰瘍薬内服で治る。内視鏡的粘膜下層剥離術以前では遺残再発率は15-40%とされており、内視鏡的粘膜下層剥離術では遺残再発率0.4%程度である。また胃を切除しないため痩せない、ダンピング症候群や貧血は生じないなどのメリットがある。胃がん以外では咽頭がん、食道がん、大腸がんも同様に行われている。
外科手術の侵襲度は内視鏡治療<<腹腔鏡下手術<開腹手術であり、内視鏡や腹腔鏡手術は身体への負担が少ない。内視鏡や腹腔鏡手術で対応するためには早期発見が肝要であるが早期がんではほとんど症状がない。そのためがん検診を定期的に受け早期の段階で発見してもらい、適切な医療機関で治療を受けることが重要である。

 本講演では内視鏡治療と腹腔鏡下の外科手術の実際と目覚ましい進歩が紹介された。本学付属病院で超高精細映像の技術「8K」(現行ハイビジョンカメラの16倍にあたる3300万画素)を使った世界で初めての内視鏡手術が行われた。これまでの内視鏡では見えにくかった細い血管や神経などがくっきりと映し出され、内視鏡手術の正確性・安全性の向上が期待された。

特別講演3「がんを遠ざける生活習慣」

 午後2時より、独立行政法人国立がん研究センターがん予防・検診研究センター・センター長津金昌一郎氏を講師に向かえ、特別講演3「がんを遠ざける生活習慣」が開催された。国立がん研究センターがん予防・検診研究センターは、「有効ながんの予防法と検診法を研究するとともに、それらを国民に効率的に普及するための科学的基盤を整備し、わが国のがんの罹患率と死亡率の激減の達成に資すること」を使命として設立され、今回講師をお願いした津金氏はセンター長として、また予防研究グループの長として「がん」の疫学研究の第一人者として活躍されている。また、「がんにならないための5つの生活習慣」(NHK出版)等の著作でも広く知られている。

 高齢化が進む現在の日本では、生涯でがんに罹患する確率は二人に一人、死亡の確率は男性で四人に一人、女性で六人に一人である。がんで死なないためには、最善の治療を受けること、早期に発見することに加え、生活習慣や生活環境を改善することによりがんにならないよう正しい知識を持って予防することも重要である。
 がんになりやすい生活習慣/生活環境として科学的根拠を持つものが幾つか挙げられているが、最も重要なものは受動喫煙を含む喫煙である。喫煙は肺がんのみならず消化器等のがんも増加させ、男性喫煙者でのがん罹患リスクは非喫煙者の1.6倍と有意に増加する。自らは喫煙しないが配偶者が喫煙する場合(受動喫煙)、肺がんの罹患リスクは有意に増加する。タバコの消費本数は1970年代前半まで増加し、その後減少に転じた。肺がんの死亡率はそれに約20年遅れる経過を示し、1990年代半ばまで増加その後減少している。このように喫煙とがんの関係は明瞭であり、公共の場での禁煙はがん予防には必須である。
 過度の飲酒習慣は主に消化器のがんと、運動不足もがんと関連がある。飲酒を控え(1日あたりエタノール量23グラム以内)と適度な運動習慣(一日一時間程度の歩行に加え週一回の活発な運動)を維持することががん予防には有効である。
 生活習慣や体質との関連に関する講演は非常に興味深いものであった。「肥満・やせ」の体形もがんに関連する。日本人男性ではBMI(Body Mass Index=体重kg/身長m2)と呼ばれる指数で20以下のやせ体形と30以上の肥満体形でがん死亡リスクが高く、成人期での体重を適切な範囲に維持する努力が必要である。米国ではやせ体形とがんの関連は指摘されていないが、もともとの体形分布が肥満に偏っており、やせ体形が非常に少ない。日本人では塩分・塩蔵食品の摂取量が多いほど胃がんになりやすい。日本人は一般に塩分の摂取量が多く、血圧等への影響も含め塩分摂取を最小限にする努力が必要である。これと反対に、欧米では加工肉(ハム・ソーセージ)・赤肉(牛・豚・羊)の摂取量とがん発症に有意な相関が見られるが、日本人の平均的な摂取量は欧米の数分の一と少ないので問題にならない。一方、野菜や果物の摂取は予防的な関連が多くの研究で示されている。また、サプリメントは、病気予防効果が証明されたものは無いか、あってもその効果は極めて限定的であり、これも過剰摂取は控えるべきとのことである。
 食品に関しては摂取量と健康リスクの関係に留意する必要がある。一般に摂取量と健康リスクはU字型の関係にあり、過少の場合も過多の場合もリスクがあり、「適量」を心がけることが重要とのことであった。講演の最後に津金氏は日本人のためのがん予防法として、非喫煙、節酒、塩分控えめ、身体活動、適正体重に努めることの5つの生活習慣の重要性を示した。
 講演終了後、会場にほぼ満席の聴講者から多くの挙手による質問の希望があったが、会場と時間の関係でニ三の質問に回答いただくに留まった。参加された方々のがん予防への関心の高さが推測できた。

 津金氏の予防研究グループは「がんの原因究明のための疫学研究を実施し、がん予防のために必要な新たなエビデンスを構築すると共に、科学的根拠に基づいた有効ながん予防法や新たな予防法の開発を目的とした研究」を実施されてきた。本講演は長年にわたるその疫学調査の集積と解析に基づき、生活習慣の改善によるがん予防に焦点を当て、多くの示唆と現実的な解決策を提示する貴重な講演であった。体形とがんの関連、塩分や肉類の摂取等、海外の調査と不一致に見える部分も、もともとの体形分布や食習慣の差を踏まえると、十分に科学的根拠に基づいており不一致とは言えないと理解できる。また今回提示いただいた5つの生活習慣はがんのみならず他の生活習慣病の予防にも有効なものであり、高齢者にとって「健康寿命延伸」とより良いQOLを実現する手段といえる。しかし、これは高齢者のみで可能なものではない。今後の高齢社会を持続的に維持していくためには、高齢者のみならず全世代でより良い生活習慣と生活環境の実現に努めることが必要と考える。



 杏林医学会は杏林大学医学部と保健学部の卒業生や学生父母を中心に「医学、保健学、看護学およびその関連分野の進歩向上を図り、会員相互の知識の交流を目的」として組織された学術団体で、例年、11月の第三土曜日に医学部キャンパスで総会と学術集会を開催している。近年は本学の医療について市民に幅広く情報公開し理解を得て、市民と共により良い医療を実現していくために、また各界の第一人者を招聘し最新の知識を共有することを目的に、医学会の総会開催時に本学で実施されている文部科学省等の事業と共催で市民向けの公開講演会を行ってきた。昨年は認知症を取り上げ、今年はがんをテーマとした。年を重ねる毎に、講演会の参加者も増加している。
 定員140名の会場は講演開始時にすでにほぼ満席で、約2時間の講演会の間に随時、参加者が増える大変な盛況であった。多数の参加者のためか、講師も熱が入り予定時間を越える講演となった。満員の参加者からは質問のため、多数の挙手があったが一部にしか回答できなかったのが残念である。来年度も引き続き、5月に脳卒中、11月に女性の疾患をテーマに同様の活動を予定している。

杏林CCRC研究所
相見祐輝


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