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脳卒中治療・予防・そしてリハビリテーション 講演会報告

杏林大学「地(知)の拠点整備」事業
杏林大学・杏林医学会・三鷹ネットワーク大学 共催

市民公開講演会

脳卒中治療・予防・そしてリハビリテーション

日時:平成27年5月9日(土)午後2時〜午後3時30分

場所:三鷹ネットワーク大学 教室ABC

司会:岡島康友(杏林大学医学部リハビリテーション医学教室 教授)

講演1:「脳卒中の最新の治療と予防」

    平野照之(杏林大学医学部脳卒中医学教室 教授)

講演2:「脳卒中のリハビリテーション」

    山田深(杏林大学医学部リハビリテーション医学教室 講師)

岡島康友先生(司会)

岡島康友先生(司会)

会場風景

会場風景

 平成27年5月9日(土)杏林大学COC事業・杏林医学会・三鷹ネットワーク大学共催の第2回杏林医学会市民公開フォーラム「脳卒中治療・予防・そしてリハビリテーション」が三鷹ネットワーク大学にて行われた。企画と司会進行を担当した医学部リハビリテーション医学の岡島康友教授は、フォーラムの主旨を「脳卒中は麻痺や失語症といった悩ましい症状を起こす病気である。症状が後遺症として残れば、歩くことや日常生活に支障をきたす。かつては治せない病気といわれてきた脳卒中だが、発症早期であれば治せる点滴薬や特殊治療が開発された。本フォーラムでは新たな治療を紹介するとともに、脳卒中にならないための工夫、そして後遺症が残った場合にはどうしたら良いか、などについて専門医にお話を伺う」と説明した。また、講演に先立ち杏林医学会総務幹事・神谷茂教授(医学部感染症学教室)からご挨拶があった。
 講演者の本学医学部脳卒中医学教室平野照之教授は熊本大学医学部卒業、同第一内科、国立循環器病センター、メルボルン大学、熊本大学神経内科、大分大学等を脳卒中の治療と予防に実績を挙げられた。本学脳卒中センターは2005年から実績を積み重ね内外から高い評価を受けてきた。さらなる高度先進医療の開発・提供、国内外への情報発信を目指し、2014年9月、日本で2番目の脳卒中を標榜する教室が開講され、その教授として杏林大学に赴任された。
 山田深先生は、慶應義塾大学医学部卒業、同リハビリテーション医学教室、月ヶ瀬リハビリテーションセンターを経て2006年より本学医学部リハビリテーション医学教室に赴任された。また2010年より宇宙航空研究開発機構宇宙医学生物学研究室主任研究員を兼任され、宇宙飛行士健康管理グループの一員としても活躍されている。

平野照之先生

平野照之先生

山田深先生

山田深先生

・特別講演①「脳卒中の最新の治療と予防」
杏林大学医学部脳卒中医学教室平野照之教授

 tPA(ティー・ピー・エイ)という名称を耳にされたことがあるでしょうか。強力な血栓溶解薬で、発症直後の脳梗塞(脳の血管が詰まる病気)の画期的治療薬として2005年から使用しています。杏林大学では2006年に脳卒中センターを開設し、tPA治療を含む様々な最新治療に取り組んでいます。ただし脳卒中患者さんの全てにこの薬が使えるわけではありません。この治療は出血リスクが伴うため、発症から4.5時間を過ぎると使えないのです。脳血管の中からカテーテルで治療する器具もありますが、早く治療しないと効果は期待できません。まさに「時間との闘い」です。もし、顔の麻痺(Face)・腕の麻痺(Arm)・言葉の異常(Speech)のうち一つでも急に起こっていれば、直ちに専門病院を受診して下さい(Act FAST)。
 脳梗塞の急性期治療は、この数年で格段に進歩しました。また、血栓を予防する薬も新しい良い薬ができています。しかし、いまだに予防に勝る治療はありません。生活習慣を見直し、脳卒中の危険因子を一つ一つ改善していくことが脳卒中から身を守る秘訣です。具体的にはどうしたら良いか?について、日本脳卒中協会が作成した「脳卒中予防十か条」を用いて解説します。

 1  手始めに 高血圧から 治しましょう
 2  糖尿病 放っておいたら 悔い残る
 3  不整脈 見つかり次第 すぐ受診
 4  予防には タバコを止める 意志を持て
 5  アルコール 控えめは薬 過ぎれば毒
 6  高すぎる コレステロールも 見逃すな
 7  お食事の 塩分・脂肪 控えめに
 8  体力に 合った運動 続けよう
 9  万病の 引き金になる 太りすぎ
10  脳卒中 起きたらすぐに 病院へ

 脳卒中は脳の血管が突如詰る、または破れたりすることで脳の血液循環に障害をきたす。現在日本人の死因第4位であるが、寝たきり(要介護度5)の原因のうち約3割を占めており第1位である。脳卒中には血管が詰まる脳梗塞、主に高血圧により血管が破れる脳出血や脳動脈瘤によるくも膜下出血がある。脳梗塞には動脈硬化や不整脈によるものがある。近年、脳梗塞の前触れである一過性脳虚血発作(Transient Ischemic Attack ; TIA)が注目されている。TIAは脳の一部で血流が一時的に悪くなることで半身の運動まひなどの症状が現れる。多くは数分から数十分で消えるが、TIA発症後3か月以内に15‐20%が脳梗塞となる。またTIA発症後3か月以内の脳梗塞発症例の半数は48時間以内に脳梗塞を発症している。英国の研究によるとTIAは直ちに専門治療が必要であり、治療によって脳梗塞発症を約8割抑制できる。顔の麻痺・腕の麻痺・言葉の異常のうち1つでも以上があると脳卒中の可能性が70%もあり直ちに専門病院を受診すると良い。脳梗塞の治療では、2005年に認可されたtPAによる血栓溶解療法が有効であるが、この治療は出血リスクが伴うため、発症から4.5時間以内でないと使えない。tPA治療の他にも特殊なカテーテルを用いて脳血管に詰まった血栓をコイルに絡めて摘出する脳血管内治療があるが、脳梗塞治療は時間との闘いである。この数年で脳梗塞の急性期治療は格段に進歩しているが、いまだ予防に勝るものはない。生活習慣を見直して危険因子を改善することが脳卒中から身を守る秘訣であり、日本脳卒中協会が作成した「脳卒中予防十か条」を守ることが重要である。脳卒中は高血圧治療により約4割減少、糖尿病では厳格な血圧管理によって約2割減少、心房細動がある方で抗凝固薬の服用により約6割抑えることができる。また禁煙も然る事ながら、お酒は飲みすぎずに1日20g(ビールなら500ml、ワインなら240ml程度)に控えることで危険度を下げられる。


・特別講演②「脳卒中のリハビリテーション」
杏林大学医学部リハビリテーション医学教室山田深講師

 脳卒中では、顔や手足の筋肉を動かせなくなる運動麻痺、触っている感じが分からなくなってしまう感覚障害、言葉を声に出せなくなったり、人が話していることを理解できなくなったりする失語症などをはじめとして、いろいろな症状がみられます。口やのどの動きが悪くなると、食べ物をうまく飲み込めなくなってしまいます(嚥下障害)。また、意識を集中したり、注意を向けることができなくなったりすることもあります。脳のどこの部分が障害されるかによって、出現する症状やその程度には一定の傾向がみられます。
 こうした症状に対しては、リハビリテーションとして理学療法、作業療法、言語療法が行なわれます。脳卒中の症状に対するリハビリテーションは、できるだけ早くから開始した方がより効果が高いことが分かっています。専門的なリハビリテーションが必要になる場合は、回復期リハビリテーション病院(病床)というリハビリテーションに特化した施設で治療を継続します。
 リハビリテーションでは身体の機能を回復する方法を検討しますが、治療を行っても後遺症が残ってしまう患者さんが決して少なくありません。完全な回復が困難な場合でも、特殊な靴(装具)や杖を使って歩く練習をしたり、不自由な体なりに着替えや入浴といった動作を行うための練習をします。仕事や趣味の活動に復帰すること、外を歩けるようになること、トイレにひとりで行けるようになること、身の回りのことを自分でできるようになること、少しでも介助の量を減らすこと、寝たきりにならないように車いすで座って過ごせるようになることなどなど、患者さんによってリハビリテーションの目的はさまざまです。社会的な背景や生活環境に応じて、福祉サービスなどの利用も検討しながら、脳卒中のリハビリテーションは進められます。

 リハビリテーションとは生活のための身体機能(運動、感覚、知的、心理的)の向上と維持を目的として行われる過程であり、障害を持った人が自立するための手段を提供する。脳卒中の症状には、運動麻痺、感覚障害、失語症、摂食嚥下障害、高次脳機能障害と多岐に渡る。脳の障害部位によって現れる症状や程度に一定の傾向が見られる。脳卒中のリハビリは、できるだけ早く開始した方がより高い効果が得られ、症状によって理学療法、作業療法、言語療法が行われる。運動麻痺のリハビリでは補装具の利用や随意運動介助型電気刺激装置などが用いられる。長く寝たままでいると筋肉が痩せる、骨が脆くなる、また関節が固まるなどの廃用症候群となる。そのため急性期のリハビリの目標は早く体を起こすことから始まり、治療と同時にリハビリを開始することによって廃用症候群予防や機能回復を図ることで後遺症を減らせる。専門的なリハビリが必要になる場合は、リハビリに特化した回復期リハビリ病院で1日3時間まで最大150日から180日入院する。退院後は社会的な背景や生活環境に応じて、介護保険や身体障害者手帳、障害年金などの福祉サービスの利用を検討しながらリハビリを進められる。

 本講演会には三鷹市民44名、八王子市民3名を含め95名が参加し、男女ほぼ同数、70代以上がほぼ同数であった。参加者の過半数が「講演テーマに興味」、また四分の一が「自己啓発」を目的として参加し、ほぼ半数が「非常に満足」、四分の一が「まあまあ満足」と評価している。また脳卒中発症時の初期対応や予防の重要性に関して多くの市民の理解が得られ、また今後の講演会のテーマにも多くの要望が寄せられた。講演会による健康寿命延伸に向けた市民啓発活動が成果をあげつつあると感じられる。

杏林CCRC研究所
相見祐輝