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金曜サロン:死生学 前期報告について

 平成27年4月より,杏林CCRC研究所分室三鷹コモンズにて杏林CCRC研究所金曜サロン「死生学」を開催しました。CCRC研究所所長の蒲生忍と杏林大学保健学部の下島裕美准教授を中心に,みたか・認知症家族支援の会の協力の下,4月〜7月を前期として計4回を開催したので報告します。死生学とは「避けがたい死を見つめて,今の生を充実させること」です。

金曜サロン:死生学「死生学の概念:生物と生命」4月17日

 平成27年4月17日(金)杏林CCRC研究所分室三鷹コモンズにて杏林CCRC研究所金曜サロン「死生学」の一回目を開催した。
 古代から人間が生物として認識してきたものは多様であり,生物は「生きている=生命を有する」という属性によって無生物と区別される。古代ギリシャの哲学者アリストテレスは,生物はすべてプシュケー(霊魂)を持ち,無生物と区別されると考えた(生気論)。一方で近代的生命観にはプシュケーの否定,ダーウィンの進化論や機械論的生命観(機械論)が含まれる。機械論では生物は物理・化学的存在である。生命も物理・化学的反応の連鎖集積であり,生体を構成する物質の解明や物質相互の代謝,そして代謝の連鎖などによる物質的要素の性質の加算として理解できる。
 それぞれの生命観における死については,生気論ではプシュケーの肉体からの離脱によって生物は無生物に帰る。一方で機械論では化学的連鎖反応の崩壊停止である。しかし,どのような化学反応または機能の停止を持って死とするかなどの疑問も残る。
 さらに,人の死生を巡る諸問題には遷延性意識障害(植物状態)や脳死,終末期医療における尊厳死や安楽死,出生前診断など多岐に渡る。人の死生について明確かつ共有可能な定義を形成することには困難が伴う。人の死生について意見を交わすためには,各自の理解と意見が異なることを尊重しあう姿勢が重要である。死は避けがたく,また経験として語ることは出来ない。しかし,夫々の思いや考えを知ることによって今の生を充実させられるだろう。

金曜サロン:死生学「生死の医療倫理」5月15日

 平成27年5月15日(金)杏林CCRC研究所分室三鷹コモンズにて死生学サロン「生死の医療倫理」を開催した。CCRC研究所所長の蒲生が話題提供し,参加市民の方々と活発な意見交換が行われた。
 医療の進歩は様々な医療現場で様々なジレンマを生み出しており,その解決や調停を目指すのが医療倫理(または臨床倫理)という考え方である。人を対象とする研究における倫理指針であるベルモントレポートの起草者の一人であるワシントン大学のAlbert Jonsenによると,実用的な腎臓透析の開発が,医療倫理という概念が明確に意識される契機になったという。即ち2台の透析器で治療を受ける10名前後の患者を,透析を必要とする多数の患者の中からどのように選ぶのかという問いである。これは今も限られた医療資源の公平な分配として我々に問いかけ続けている。
 今回のサロンでは医療倫理の基盤となる考え方,善行・無危害・自律・公平の倫理原則について話題提供を行い,意見交換を行った。


金曜サロン:死生学「キューブラー=ロスのビデオを見る」6月19日

 平成27年6月19日の金曜サロンでは蒲生が話題提供者としてエリザベス・キュブラーロスを取り上げた。キュブラーロスは名著「死ぬ瞬間」により終末期患者のインタヴューにより「否認・怒り・取引・抑うつ・受容」の死の受容過程を解析したことで余りに有名である。また,キュブラーロスはこの著書により,同時に医療提供者への死生学教育の道を拓いているといえる。さらにキュブラーロスは終末期の緩和ケアの基盤となる全人的痛みやグリーフケアの概念の泰斗でもあり,多様な試みを実践した。特に終末期の子どもとの対話から「無条件の愛unconditional love」や「未解決の問題unfinished business」というキーワードを提示している。キュブラーロスの「蝶」をモチーフとする霊魂に関する発言や記載はその根底には人間の愛への傾倒があり,多くの物議を醸したが,一概に否定できるものではない。このサロンではキュブラーロスの生涯に渉る活動を概観することを通して,改めて学ぶことを目指した。

金曜サロン:死生学「死生学教育:認知心理学からのアプローチ」7月24日

 今回は死について認知心理学の視点から考えてみました。まず「私達の記憶は正確なのか」を確認するための実験を行い,「自分が見たいものだけを見て,自分に都合がいいことだけを思い出す」という人間の特性を理解しました。次にGuided Death Experience(死にゆく過程の疑似体験)という課題を紹介し,いつか必ず訪れる自分の死を意識することによって「自分の人生の過去・現在・未来の捉え方(時間的展望)」が変化する可能性について考えました。最後にセリグマンの「学習性無力感」と「オプティミストはなぜ成功するのか」を紹介し,参加者全員で「自分が幸せになるための死生学」について話し合いました。