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ピロリ菌を除菌してきれいな胃を取り戻そう 講演会報告

杏林大学「地(知)の拠点整備」事業
杏林大学・三鷹ネットワーク大学 共催

市民公開講演会

ピロリ菌を除菌してきれいな胃を取り戻そう

日時:平成27年11月28日(土)午後1時30分〜午後3時

場所:杏林大学三鷹キャンパス 臨床講堂(第2病棟4階)

講演者:高橋信一(杏林大学医学部教授)


 平成27年11月28日(木)杏林大学・三鷹ネットワーク大学共催公開講演会「健康寿命延伸」講座「ピロリ菌を除菌してきれいな胃を取り戻そう」が本学三鷹キャンパスにて行われた。講演者の本学医学部第三内科学教室消化器内科高橋信一教授は、本学医学部卒、米国ハーバード大学留学、1999年より本学医学部第三内科学教室教授に着任、2010年から本学医学部付属病院副院長を務めている。


『ピロリ菌が胃粘膜から発見されて22年が過ぎました。この間いろいろと研究が進み、今では胃炎から胃潰瘍、そして胃がんまでピロリ菌が原因だとわかってきました。ピロリ菌を抗生物質で除菌すると胃炎が良くなってきます。胃潰瘍も再発しなくなります。そして胃がんの予防にもなります。このピロリ菌について、感染経路から検査法、そして除菌法までわかりやすくお話します。日本人に感染率の高いピロリ菌、さあ除菌をしてきれいな胃を取り戻しましょう。』

 ピロリ菌は、主に幼年期に感染すると考えられている。ピロリ菌は胃の中に感染し、慢性的な炎症を引き起こす。慢性炎症では胃粘膜ひだのむくみや濁った胃液を認める。慢性胃炎は、葡萄の房状の過形成ポリープや胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がんなどに至ることがある。1983年にオーストラリアのウォーレンとマーシャルにより、それまで細菌の生息は困難とされていた胃から発見され、ピロリ菌と命名された。正式名は、ヘリコバクター・ピロリで、ヘリコはらせんや旋回、バクターはバクテリア(細菌)、ピロリは発見された胃の出口(幽門)を指すピロラスが由来である。胃内部は強い酸性である。ピロリ菌はウレアーゼを分泌して尿素からアンモニアを産生することで胃酸を中和する。ヒトの体内では胃粘膜のみに生息する。2011年には日本人のおよそ1/3の3500万人が感染といわれている。感染経路は糞-口感染ないしは口-口感染と考えられている。戦時中の出生児や幼児期であった方は上下水道未完備の公衆衛生環境不良のためピロリ菌感染率が高い。従来、胃・十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)などに罹患していなければピロリ菌除菌を保険診療で行うことは出来なかったが、2013年2月から胃炎かつピロリ菌感染で保険診療により除菌可能となった。ピロリ菌検査法には、内視鏡を使わない尿素呼気試験、血液ないしは尿中抗体検査、糞便抗原検査、内視鏡により胃粘膜を採取して培養、鏡検、迅速ウレアーゼ試験がある。ピロリ菌除菌には一次除菌と二次除菌がある。一次除菌はアモキシシリン、クラリスロマイシン、プロトンポンプ阻害剤(PPI)の3剤併用を一週間服用する。一次除菌で約80%の方が除菌できる。一次除菌で除菌できなくても二次除菌にて約90%の方が除菌できる。
 ピロリ菌の慢性的感染は胃がんの重要な危険因子であり、除菌することによって将来の胃がん発症を予防できる可能性が高まる。近年、ピロリ菌除菌による胃がんの一次予防に加えて、ABC検診(胃がんリスク検診)による胃がん二次予防が注目されており、三鷹市でも実施されている。ABC検診は血液を採取し、血清ヘリコバクターピロリIgG抗体と血清ペプシノーゲン(PG)を測定することで胃がんリスクを判定する。胃がん検診の主流であるX線法では見落としていた早期胃がんを多数発見した報告がある。胃がんのリスクが高い場合は胃内視鏡検査を受診することが大切である。

 ピロリ菌は幼少期に感染し、慢性的な感染により日本人に高頻度の胃がんの発症に密接に関係する。発がんのメカニズム解明は日々に進歩しており、それに基づく検診も実用化されている。がん検診は完璧なものではないが、ピロリの例が示すように高齢者においても検診と適切な治療によりがんリスクを下げ健康寿命を延伸することが可能であり、等閑にはできない。

杏林CCRC研究所
相見祐輝